近年、相続トラブルは増加の一途をたどっています。「我が家は財産が少ないから。争うような財産はないから。相続トラブルは無縁!」と思われる方も多いと思いますが、司法統計によると家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割のうち、75%が遺産額5000万円以下となっており、うち33%は遺産額が1000万円以下でした。
ここでは、トラブルになりやすい遺産相続の特徴から、未然に防ぐ方法、また、争いになってしまった時の対処法を解説いたします。
目次
1. 親戚間でトラブルになりやすい遺産相続の特徴
1-1. 財産がさほど多くない
親戚間でトラブルになりやすい遺産相続の特徴の一つは、財産がさほど多くない場合です。
さほど多くない財産の中で、不動産が多くを占めていると、とくにトラブルが起こりやすくなります。不動産は複数の人数では分けにくい資産です。誰か一人が不動産を相続して、その人の相続分がぐっと上がることで他の相続人は相対的に相続分が減ります。
財産が多いともめることを予測して、生前に遺言書を作成するなどして対処することがありますが、財産がさほど多くない場合には“大した財産がないのだから、遺言書なんて必要ないだろうだろう”と思い込み、生前に遺言書の準備をしないケースが非常に多いのです。財産がさほど多くない人こそ、トラブルになりやすいことを考慮して、遺言書を作成するようにしましょう。
裁判所の統計からみても、遺産額が5,000万円以下で相続争いに発展しているケースが7割を占めています。ごく普通のご家庭で、揉めるような財産はないと思っていても、実はそんなことはなく、相続争いは遺産の多い少ないに関わらず、誰にでも身近に起こり得ることなのです。
1-2. 相続分が極端すぎる
極端な遺産分割は、トラブルの元となりやすいです。
例えば、被相続人が「遺産は全て長男に相続させる」という旨の遺言書を作成したとします。他の兄弟姉妹は、何ももらえなくなってしまうので長男に文句を言うことでしょう。文句を言うだけであればまだ良いですが、人間関係が壊れてしまうかもしれません。
実際のところ、このような極端な遺産の分け方については、何ももらえない側の人が遺留分を主張することで最低限の遺産を受け取ることができます。もっとも、遺留分を主張しても聞き入れてもらえなかった場合は、裁判で争うことになります。
親戚間で争うとなると、さらに関係が悪くなってしまうこともあるということを覚えておきましょう。
1-3. 借金が多い
親戚にお金を借りていたことがあると、相続の時にトラブルになることがあります。
お金を貸していた親戚としては、お金を取り戻したいので相続財産の中から返済を求めるでしょう。親戚とのお金のやり取りでよくあるのは、口約束です。いくら借りたのか、記録が残っていないことがあります。
証拠がないものを返したくない、と相続人は思うでしょう。相続人が周りとお金の貸し借りがあるような場合は、注意が必要です。
1-4. 人間関係が希薄
そもそも人間関係が希薄な場合も、トラブルが非常に発生しやすいです。
家族関係が複雑な家庭の場合、親戚同士であっても連絡を取ることがないケースがしばしば見られます。心理的な関係も複雑であると、なおさらマメな連絡は無いでしょう。
相続を進めるには、まずは戸籍の収集をして、相続人を確定する必要がありますが、慣れていない人の場合は養子や婚外子などを見落としてしまいがちです。それでも、連絡を取ってきた相手であれば見落としに気がつくかもしれませんが、連絡もしたことがないし会った事もないとなれば、見落とす確率は上がるでしょう。
もし相続人の一人に声をかけ忘れていてそのまま遺産分割協議をしてしまったら、遺産分割協議は無効になり、やり直しになってしまいます。二度手間ですし、登記などの費用が何重にもかかってしまうなどのリスクがあるので注意しましょう。
2. 相続争いを未然に防ぐ方法
相続争いに発展してしまうと家族仲は悪くなり、その後の相続手続きに悪影響を及ぼします。亡くなられた方の預金を早急に引き出したくても、遺言書がない場合は、相続人全員の同意が原則、必須となるため、揉めてしまうと預金ですら、なかなか引き出すことができなくなってしまいます。
相続税の申告が必要な場合は、分割協議が整わなければ、適用できるはずの特例が使えないまま、相続税が減額されない状況で期限内申告をしなければならなくなります。様々な不利益が生じるとともに、争いが長引いて調停や裁判で争うことになってしまうと、余計な費用までかかりますので、相続争いは極力未然に防いでおきましょう。
2-1. 遺言書・財産目録を作成する
遺言書の作成は、相続争いを避ける最善の方法といえるでしょう。遺言書がある場合、原則、遺言書通りに速やかに財産を引き継ぐことができます。亡くなられた方の意思ですから、相続人も納得しやすいものです。
遺言書を作成する際は、遺留分に十分な配慮をしてください。遺留分の権利は法律で守られていますので、遺留分を侵害した遺言書はかえって争いの要因となり兼ねません。また、相続財産の内容が一目で分かる財産目録を作成しておくとなおよいでしょう。財産目録があると、どんな手続きをすべきかが明確になっているので、相続手続きが速やかに進みます。
無用の争いを避けるためにも、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産もすべて明記した財産目録を作成することが大切です。
2-2. 生命保険の受取人を指定する
受取人が指定されている保険金は、受取人固有の財産となり、相続で分割する対象の財産とはなりませんので、確実に受け取ってもらうことができます。また、相続財産の大半が分割しづらい不動産である場合、生命保険契約を上手に活用することで、代償金に充てる財産を補填することなどもできます。
2-3. コミュニケーションをはかる
相続争いを避けるには、家族間で、それぞれの立場を考慮した話し合いができるような「関係性」を築いておくことが非常に大切です。
生前にご家族が集まって、相続についての思いや相続財産について話しておくことは、とても重要なことです。縁起でもない・・・となかなか相続の話はしにくいものですが、大切なご家族が、相続後の人生も仲良く助け合って、幸せに過ごすためには、コミュニケーションをとって、認識を合わせておくことが大事です。
3. 相続争いになった場合の対処法
相続争いはできるだけ避けたいものですが、人それぞれ思いや主張があるため、どうしても争いが起きてしまうことは当然あります。相続争いが起きてしまったら、いかに争いを長引かせないよう、早期に解決させるかがポイントとなります。
3-1. 代償分割する
代償分割とは、相続人の1人が不動産などを相続し、他の相続人に対し、相続分の差額を現金などで支払うことです。ご実家など、残しておきたい財産がある場合は、代償金を支払うことで、他の相続人と公平な形で分割することができます。
3-2. 相続分を譲渡する
相続分の譲渡とは、法律で定められた相続できる割合の法定相続分を他の方に譲ることです。有償譲渡(譲渡する対価として代金を支払うこと)、または無償譲渡があります。
相続争いと関わりたくないときに、相続分を譲渡することで、相続争いから離脱することができます。また、相続分の譲渡をすることで、遺産分割協議に参加する必要もなくなります。
3-3. 遺留分を放棄する
遺留分とは、亡くなられた方の財産のうち、相続人が最低限相続できる財産の割合です。遺留分は、亡くなられた方のご兄弟(姉妹)以外の法定相続人が認められる権利です。例えば「長男に全財産を相続させる」と遺言書に書かれた場合、次男の方は遺留分を請求することができるのです。
遺言書は亡くなられた方の思いであるため、亡くなられた方の意思を尊重して、あえて遺留分を請求せず、放棄することで、相続争いを避けることもできます。遺留分の放棄に所定の手続きはなく、権利を請求しなければ、放棄したことと同じ意味となります。
3-4. 専門家に相談する
相続人間だけで解決することが難しい場合は、相続の専門家に相談し、解決を図ることをおすすめ致します。相続人同士では、譲りあえないことであっても、第三者が間に入ることで冷静に話しあうことができ、早期に解決の糸口が見えてくることもあります。
当事務所の弁護士は、相続への対応経験が非常に豊富な弁護士が多く在籍しております。
まずはお気軽にご相談ください。
● 弁護士に相談するメリット
- 法律の正しい考え方を教えてもらうことができる
法定相続分や寄与分、特別受益などの法律の正しい考え方を教えてもらえるので、遺産分割の方針を定めやすくなります。相手が間違ったことを言っていれば根拠をもって説得できます。
- 代理交渉を依頼できる
相手ともめてしまったときには代理交渉を依頼できます。当事者同士の感情的な対立を防げますし、自分で対応しなくてよいので労力がかかりません。ストレスも大きく軽減できます。
- 調停、審判、訴訟も依頼できる
交渉が決裂して遺産分割調停や審判、その他の訴訟が生じた場合にも弁護士に任せていれば安心で、労力もかかりません。
- 有利に解決できる可能性が高くなる
知識やノウハウを蓄積している相続に詳しい弁護士が交渉や裁判手続きを行うと、有利に解決できる可能性が大きく高まります。
相続争いは、相続財産の多い少ないに関わらず、誰にでも起り得ることです。相続争いが起こる際にはいくつかの要因があります。その要因をふまえて、事前に対策をとることで、相続争いを防ぐことができます。
相続争いは、家族間の仲が悪くなるだけでなく、相続手続き上も様々な不利益が生じ、何も良いことはありません。相続争いに関し、ご心配な方は、ぜひ私たち弁護士にご相談ください。早めに対策をとっておきましょう。