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交通事故の示談交渉・訴訟 ー 事故から示談・裁判までの流れと、保険会社との対応で気をつけるべきこと

治療が終了し、後遺障害も確定した後は、いよいよ交通事故によって負った損害額を加害者に支払ってもらうための交渉を開始することとなります。特に、交通事故の被害に遭った際、被害の状況と共に気になるのは、最終的な損害賠償金額を決定する「示談交渉」のことかと思います。

「もめたくない」「早く解決してしまいたい」と思い、届いた示談書の内容をしっかりと確認しないまま、焦って合意しようとしてはいませんか?

一旦冷静になって考えてください。焦って示談書に合意してしまうと、後から内容を覆したり、追加の請求をすることはできなくなってしまいます。示談書が届いても、納得できない内容には合意せず、焦らず落ち着いて対処することが大切です。

納得できる示談にするために、示談交渉の流れから、有利に進めるためのポイントや準備方法、訴訟との違いについて説明していきます。

1. 示談とは

そもそも、示談交渉とは何なのでしょうか。示談交渉とは、交通事故の損害賠償金の支払方法を決めるための話し合いの手続きと理解すると良いでしょう。

交通事故によって、被害者には様々な損害が発生します。車の破損もありえますし、怪我をしたら入院や通院の治療費も当然かかってきます。もし後遺障害が残ってしまったら、相手に後遺障害慰謝料も請求しなければなりませんし、死亡事故となってしまった場合は、死亡慰謝料や葬儀費用等が発生します。

このような交通事故にもとづく損害賠償金の支払いを受けるためには、相手と話し合いをして賠償金の金額と支払い方法を決定する必要があります。その話し合いの手続きを、示談交渉と言います。

2. 示談交渉の流れ

次に、交通事故が起こった後、示談交渉が開始するまでの流れを確認しておきましょう。

示談交渉の流れ

交通事故が起こっても、すぐには示談交渉を開始しないケースが多いです。

交通事故後、しばらく治療を行い、症状固定をしたタイミング・後遺障害認定が終了したタイミングから示談を開始するのが通常です。死亡事故の場合も、葬儀などいろいろな手続きがあるので、それらがすべて終わった後で示談交渉を開始するのが通常といえます。

示談が成立すれば、示談金が支払われます。示談が不成立の場合は、裁判となります。

3. 示談交渉と保険会社

3-1. 保険会社への対応

交通事故の示談交渉は、多くの場合、保険会社同士で進めることになります。ここで注意しなければならないのは、被害者は保険会社にすべてを任せきりにしてはいけないという点です。

示談交渉の際、自分の保険会社であっても、必ずしも被害者にとって最善の利益を実現してくれるとは限りません。

まず、保険会社としては、できるだけ自社の支払いを低くしたいと考えます。そこで、損害賠償金額の計算において、低額な自賠責基準や任意保険基準を使います。お互いの支払いが少なくなることで、保険会社にとっては当然利益になりますが、全体として支払いを減額されると、被害者本人にとっては非常に大きな損失になります。

また、被害者に対して大きく過失を割り当てたり、早期に示談をまとめてしまったりするケースは実際に存在します。そうなると、不当に過失割合を高くされた被害者は、受け取ることができる示談金の額が大きく減ってしまい損をしてしまうことになります。

3-2. 保険会社の対応・示談交渉の内容に納得できない場合

示談交渉が成立したら、示談書が送られてきて署名押印する必要があります。一旦示談書に署名をすると、その内容でその交通事故の損害賠償金の全額が確定してしまいます。後々、「やっぱり足りないかも」「追加で慰謝料を支払ってほしい」などと言うことは基本的には不可能です。

一回署名押印すると、後で撤回することも困難なので、示談書に署名をする場合には、本当にその内容ですべて終わらせて良いのか、妥当な金額であるか、もう一度よく考えてみることが大切です。少しでも納得できていない部分があるなら、署名前にすっきりさせておくことをおすすめいたします。

示談金が妥当か分からないということはよくある疑問です。また、納得できずに保険会社に交渉を行っても、丸め込まれてしまうケースは非常に多いです。自分一人ではどのように考えて良いか分からない場合は、私ども弁護士にぜひ一度ご相談ください。

ただし、損害賠償金の請求権には時効があるので、早期のご相談をおすすめいたします。

4. 示談と裁判の違い

交通事故で相手に損害賠償請求をする方法としては、示談と裁判がありますが、この両者は何が異なるのかが問題です。

示談とは、相手との間で「話し合い」によって損害賠償金を決定する方法です。これに対して裁判とは、相手との間で「訴訟手続」によって損害賠償金を決定する方法です。

示談では、相手側の保険会社と直接話し合いをすすめ、合意に至る必要があり、合意が完了したら示談書を締結し、その内容に従って相手は被害者に支払をしてきます。これに対し、裁判の場合、裁判官の判断に基づいて賠償額を定めます。

示談交渉をしていても、どうしても合意が成立しない場合に、最終的に裁判という選択肢を検討することになります。

5. 裁判の流れ

裁判と決定したあとの裁判の流れは、以下のようになります。

裁判の流れ

裁判では、裁判所に申立をして、こちらの主張と立証を展開します。相手も同じように相手の主張と立証を展開して、お互いに主張を繰り広げることになります。その内容を裁判官が見た上で、法律的に妥当な主張を採用し、判決を確定します。

判決では、こちらの主張が必ずしも認められるとは限りません。主張や立証が不十分だった場合、負けてしまうことも当然あり得ます。

判決が出た場合には判決書が送付され、その内容に従って相手から支払いを受けることになります。

また、裁判の途中で和解することもできますが、その場合には、裁判手続き内で相手と話し合いによって損害賠償金の金額を決めることになります。

死亡事故で大切なご家族を亡くされた方へ ー 受け取ることのできる損害賠償や必要手続きなどを解説

ついさっきまで元気だったひとがいきなりこの世から去ってしまう、そのような悲しい現実を招いてしまう一つが、交通事故です。しかし、現実をなかなか受け入れられない状況の中でも、考えなければならないことが多くあるのが実際です。

「家族が交通事故で命を落とした…残された自分たちの生活はどうなるのだろうか…」

大切なご家族を事故で失い、大変な苦痛とショックを受け、動揺されている中で、今後どうやって生活したら良いのか、そのような悩みを抱えている方の力に少しでもなれればと、当弁護士法人きさらぎは感じております。

死亡事故の加害者には重い責任が課せられます。損害賠償金など、ご遺族の方が多く疑問に思う点、行わなければならない手続き等をまとめてみましたので、少しでも参考になれば、と思っております。一緒に確認していきましょう。

1. 死亡事故の損害賠償

精神的に非常に辛い中でも、相手方と必ずやりとりをする必要があるのが、損害賠償についてです。死亡事故の損害賠償というと「慰謝料」などを思い浮かべる方が多いかと思います。

まず、「損害賠償」と「慰謝料」の違いをご存じでしょうか?「損害賠償」と「慰謝料」はよく混合して認識されやすいのですが、正確には意味合いが少し異なります。

慰謝料とは、数ある損害賠償の種類の1つであり、損害賠償とは、治療費や修理費用や慰謝料など、加害者に対して請求できる賠償金の全てを指します。

以下の図のようなイメージを持つと理解しやすいかもしれません。

損害賠償と慰謝料

実際、死亡事故では、慰謝料以外にも以下のような損害賠償を受け取ることができます。

相手が即死した場合

  • 死亡慰謝料
  • 葬儀費用
  • 過失利益

相手が受傷後に死亡した場合

  • 死亡慰謝料
  • 葬儀費用
  • 過失利益
  • 怪我の治療費
  • 通院等の交通費
  • 傷害慰謝料

死亡事故の損害賠償では、上記のような損害賠償が請求できます。

入院中の治療費や傷害慰謝料は、被害者が事故にあってから死亡するまでに一定期間の入院治療を経ていた場合のみ、請求することができます。これらの損害賠償は、示談交渉が終了したあと、相手方の保険によって賄われることとなります。

これらの損害賠償は、大きく3つの項目に分類することができます。

  1. 積極損害
    交通事故の被害を受けたことで被った実際の出費による損害のこと。
    例)治療費・入院費・交通費

  2. 消極損害
    交通事故の被害を受けたことで利益(収入)が得られなくなったことによる損害のこと。
    例)逸失利益

  3. 慰謝料
    交通事故の被害をうけたことで被った精神的な苦痛に関する損害のこと。

以上、3項目になります。

2. 事故発生から損害賠償受け取りまでの流れ

死亡事故の損害賠償を受け取るまでの流れは以下の図のような流れになります。

事故発生から損害賠償受け取りまでの流れ

交通事故の発生から損害賠償(示談金)の受け取りまでの流れはイラストのような流れになります。大まかには事故発生→(治療)→保険会社との示談交渉→示談金受取といった流れになります。

入院中の治療費や傷害慰謝料は、被害者が事故にあってから死亡するまでに一定期間の入院治療を経ていた場合、請求することができます。

交通事故における損害賠償問題の多くは、事故の相手方が加入する任意保険会社との示談交渉によって進められていくことになります。示談交渉で話がまとまらなかった場合には、民事裁判という方法で損害賠償問題の解決が図られることになります。

3. 損害賠償金額の計算方法

ご遺族の方は、死亡事故で支払われる損害賠償金額の金額が気になるところだと思います。突然の出来事により、ご家族を死亡事故で亡くされたご遺族の皆様の今後の生活のためにも、適正な損害賠償が支払われるべきです。

では、各損害賠償金額は、どのように計算して金額がはじき出されることになるのか、みていきましょう。

3-1. 積極損害

実費による計算が基本となります。

3-2. 消極損害

死亡事故における消極損害は、逸失利益のことになります。

逸失利益とは、交通事故に遭い後遺障害等級が認められた場合に加害者側に請求できる賠償金のことであり、詳しくは、交通事故で被った後遺障害により労働能力を喪失した結果、失うことになった収入に対する補償金のことになります。

死亡事故の場合、被害者は生命を奪われるのですから、言うまでもなく、交通事故に遭わなければ得られていたであろう収入や利益のすべてを失ってしまうことになります。

この逸失利益は,基本としては,1年あたりの基礎収入に死亡しなければ稼働できたはずの期間(稼働可能期間)を乗じて算定することになります。

死亡逸失利益 = 1年当たりの基礎収入 × (1-生活費控除率) × 稼働可能期間に対応するライプニッツ係数(またはホフマン係数)

1年当たりの基礎収入

死亡逸失利益を計算するためには、まず、1年当たりの基礎収入を算出する必要があります。

1年当たりの基礎収入は、交通事故前1年間の収入がベースになります。給与所得者であれば源泉徴収票、事業者であれば確定申告書もしくは課税証明書などによって、1年間の収入を明らかにする必要があります。

現実収入のない家事従事者等については、賃金センサスを利用することになります。

生活費控除

死亡逸失利益の算定においては、生活費控除をする必要があります。実際、亡くなった後の生活費を明らかにできるのであればそれを控除するのですが、実際には困難です。

よって、生活費控除率というものを利用して計算することになります。生活費控除率は、自賠責保険・任意保険・裁判の各段階で基準が異なっています。

自賠責保険の場合

自賠責保険の場合、以下の生活費控除率が「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済の共済金の支払い基準」に定められています。

  • 被扶養者がいる場合  35%
  • 被扶養者がいない場合 50%

任意保険会社基準の場合

現在は、任意保険が自由化されているため一概には言えませんが、旧任意保険会社の基準では、以下の基準が設けられており、現在もこの基準に近いものが利用されていると考えられます。

  • 被扶養者が3人以上いる場合 30%
  • 被扶養者が2人いる場合   35%
  • 被扶養者が1人いる場合   40%
  • 被扶養者がいない場合    50%

裁判の基準の場合

裁判の場合は、いわゆる「赤い本」の基準が用いられています。

  • 被害者が一家の支柱だった場合
     被扶養者が2人以上の場合 30%
     被扶養者が1人の場合   40%
  • 被害者が一家の支柱以外だった場合
     女子の場合 30%
     男子の場合 50%

稼働可能期間

死亡逸失利益の算定のためには、稼働可能期間も算出しておく必要があります。つまり、死亡後、どのくらいの期間、収入を得るために働くことができたのかという期間を推測する必要があります。

一般的には、18歳(大学を卒業している人は22歳)から67歳までとされています。ただし、高齢者の場合には、67歳までの年数と平均余命(厚生労働省の簡易生命表を利用して算出)の1/2のどちらか長い方を稼働可能期間として計算します。

なお、この稼働可能期間については、中間利息控除という措置をとる必要があります。具体的には、稼働可能期間に応じたライプニッツ係数を乗じるという方法を取ります。

この逸失利益の計算は非常に難しく理解しがたいと思います。私ども弁護士がしっかりと説明をしますのでご安心ください。

3-3. 慰謝料

被害者の皆さんが最も気になるであろう、慰謝料の計算方法についてご説明いたします。

交通事故の死亡慰謝料の相場には、3つの基準が存在します。同じ負傷の度合でもどの基準が適用されるかによって金額が変わるので、それぞれの違いについて理解しておいた方が良いでしょう。

交通事故の3つの基準とは、

  • 自賠責基準
  • 任意保険基準
  • 弁護士基準

の3つを指します。それぞれについてどのような基準なのか、そして、それぞれの死亡慰謝料はいくらなのか確認してみましょう。

① 自賠責基準

自賠責基準は、交通事故により負傷した被害者に対して、自賠法に基づく省令で決められた最低限の補償を行うことを目的とした基準になります。自賠法とは、交通事故の被害者が最低限の補償を受けるためのものであり、その金額は低く設定されています。

自賠責保険による死亡慰謝料は、亡くなったご本人に対する慰謝料は、立場に関係なく350万円と決まっています。

また、ご遺族(父母、配偶者、子)に対する慰謝料は、ご遺族が1人の場合は550万円、2人の場合は650万円、3人の場合は750万円と決まっています。

② 任意保険基準

任意保険基準は、自動車保険会社が独自に設けている基準であり、任意保険会社から被害者本人に提示される慰謝料の基準になります。任意保険基準では、自賠責基準よりも多くの保障が受けられますが、死亡慰謝料の金額として適正な金額とは言えません。

なぜなら、任意保険会社は営利企業であり、加入者を増やすために保険料をできるだけ安く設定しようとします。そのためには、支出を抑える必要があるので、できるだけ被害者に支払う死亡慰謝料を少なくしようとします。

任意保険基準の場合の慰謝料は、亡くなったご本人の立場で異なります。

  • 一家の支柱     :1700万円
  • 18歳未満の未就労者:1400万円
  • 65歳以上の高齢者 :1250万円
  • その他       :1450万円

と決まっています。

③ 弁護士基準

弁護士基準は、弁護士が代理人として交渉や裁判を行った際に得られる慰謝料の基準であり、裁判所の判例などを参考にした基準になります。

弁護士基準の場合も、亡くなったご本人の立場で慰謝料の金額が異なります。

  • 一家の支柱 :2800万円
  • 母親・配偶者:2500万円
  • その他(独身男女、子ども、幼児等):2000万円~2500万円

となります。しかし、弁護士基準の場合、必ずしも上記の額というわけではなく、事情により増減されることがあります。

任意保険基準と弁護士基準の死亡慰謝料の比較

では、任意保険基準と弁護士基準の死亡慰謝料を比較してみましょう。

慰謝料の金額相場の3つの基準の比較
  • 弁護士基準
    一家の支柱 :2800万円
    母親・配偶者:2500万円
    その他   :2000万円~2500万円

  • 任意保険基準
    一家の支柱 :1700万円
    母親・配偶者:1250~1450万円

このように、自賠責基準や任意保険基準と比較して、弁護士基準が最も高額な慰謝料が設定されることが多いです。

4. 弁護士に依頼するメリット

前述したように、死亡慰謝料の金額は『弁護士基準>任意保険基準>自賠責基準』の順番であり、弁護士基準の慰謝料が最も高額となります。

多くの事故では自賠責準か任意保険基準が適用されますが、弁護士を雇った場合には弁護士基準が適用される可能性が高くなります。

交通事故の慰謝料を弁護士基準にするには、弁護士に示談交渉を依頼する必要があります。被害者本人が、個人的に慰謝料を弁護士基準で相手方に請求しても、保険会社は支払いに応じてくれません。弁護士が交渉した場合、示談が成立しなければ裁判を提起することになり、裁判が提起されると、過去の裁判を基礎に作成された弁護士基準の金額の判決が出る可能性が高くなるのです。

よって、保険会社は、弁護士が交渉を行うと、裁判をたとえしなくても弁護士基準を基礎にした示談に応じます。つまり、示談の段階で慰謝料を弁護士基準にするには、弁護士に依頼することが最も迅速かつ確実です。高額な慰謝料を受け取れるということが、弁護士に依頼をする最大のメリットであるといえます。

他にも、加害者や保険会社との交渉を全て弁護士が担ってくれるといった点が、弁護士に依頼をするメリットといえます。弁護士が全て交渉を行うことにより、ご遺族の皆様が心理的負担から解放される点は見過ごせません。

また、死亡事故で慰謝料と並ぶ損害項目の逸失利益の賠償額も大きくアップする点も大きなメリットです。こちらに過失がある死亡事故では、元の金額が大きい分、過失割合の交渉はとても大切であり、弁護士に依頼すれば交渉を有利に進めてくれるはずです。

「弁護士に依頼するのは、弁護士費用などの面が心配…」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、被害者の方が加入している任意保険によっては弁護士費用特約によって、弁護士費用が保障されることがあります(弁護士費用特約については、こちらのページにて詳しく説明しているので、ぜひご参照ください)。

最近の保険には、弁護士費用特約がセットになっていることが非常に多いため、ぜひ一度ご確認をしてみることをおすすめいたします。

交通事故で頭部外傷を負った方 ー 高次脳機能障害の概要と、認定される要件について解説

交通事故により頭部外傷を負ったケースでは、高次脳機能障害という重い後遺障害が残ることがあります。

事故後に言葉を発することが困難になってしまったり、記憶に異常が出てしまったり、これまでと同じような行動を取ることが困難になってしまったりと、日常生活に支障を来してしまう方、中には、性格まで変わってしまう方もいらっしゃいます。

このような方は、交通事故による高次脳機能障害を疑い、早期に病院の受診をすることをおすすめいたします。

1. 頭部・脳の構造について

交通事故により頭部外傷を負ったケースでは、高次脳機能障害という重い後遺障害が残ることがあります。頭部外傷が原因となる後遺障害について説明をする前に、頭部、脳の構造や役割についてまずご説明いたします。

頭部・脳の構造

1-1. 頭蓋骨

頭蓋骨は、機能面から考えると、脳を保護する脳頭蓋と、顔面を形成する顔面頭蓋の2つに分類することができます。

頭蓋骨よりも外側のことを頭蓋外といい、頭部軟部組織が覆っています。 頭蓋骨よりも内側のことを頭蓋内といい、脳が髄膜に包まれた状態で存在します。
頭蓋骨の中でも、脳に対して影響を及ぼすのは頭蓋内であり、頭蓋内の損傷の有無が、頭部外傷においては問題となります。

1-2. 髄膜

髄膜の構造

頭蓋骨の下にあり、脳を包んでいる膜のことを髄膜といいます。髄膜は、3層構造になっており、上の図のように、外側から順に硬膜・クモ膜・軟膜の3層でできています。

① 硬膜

一番外側の膜が硬膜であり、硬膜は、頭蓋骨の内面に張り付いている比較的丈夫な膜です。硬膜は、脳と脊髄を周囲の組織から隔て、外傷や感染から守るという役割を担っています。
硬膜は、左右の大脳の間にくびれこむ大脳鎌と呼ばれる構造をとっており、また、大脳と小脳の間には小脳テントなどを形成しています。

② クモ膜

クモ膜は、硬膜と軟膜の間にある透明(一部不透明)な膜です。
クモ膜と硬膜は密着していますが、クモ膜と軟膜の間にはクモ膜下腔という繊維性の網のようなものがあり、脳脊髄液で満たされています。このスペースに出血が起こると、よく知られている疾病であるクモ膜下出血となってしまいます。

③ 軟膜

最も内側の膜が軟膜です。軟膜は、脳実質に張り付いているほぼ透明な膜であり、脳の表面それ自体です。

1-3. 脳脊髄液

脳と脊髄は、脳脊髄液という液体の中に存在しています。脳脊髄液は、外界からの衝撃を吸収したり、脳と脊髄の新陳代謝を調節するといった役割を果たしています。

脳脊髄液は、1日に約500~600cc生成され、清浄な成人の髄液量は常に140~180CCとされています。よって、1日に3~4回入れ替わっていると考えられます。

1-4. 脳

脳は、大脳・間脳・小脳・脳幹の4つの部分に分けられます。さらに、間脳は、視床・視床下部に分けられ、脳幹は、中脳・橋・延髄に分けられます。

脳の構造

① 大脳

大脳は、前頭葉・側頭葉・頭頂葉・後頭葉に分けられ、それぞれが異なる機能を持っています。

  • 前頭葉
    運動の中枢、感情・判断力・創造などの精神機能の中枢、言葉を話す中枢(運動性言語中枢)

  • 側頭葉
    記憶・聴覚・嗅覚の中枢、言語を了解する中枢(感覚性言語中枢)など

  • 頭頂葉
    感覚(痛覚、温度覚、触覚など)の中枢

  • 後頭葉
    視覚の中枢

② 間脳

間脳は、視床と視床下部に分けられます。

  • 視床
    大脳と中脳にはさまれており、感覚伝導路の中継核として、非常に大切な役割を担っています。

  • 視床下部
    自律神経系の最高中枢として、非常に大切な役割を担っています。

③ 小脳

小脳は、重さだけを見れば大脳の約10%と非常に小さいですが、微細なしわの存在により、表面積は大脳の25%にも及んでおり、神経細胞数は大脳と匹敵する、非常に重要な部位になります。

小脳は、脳全体の後下方にあり、運動のバランスやスムーズさを調整しています。

④ 脳幹

脳幹は、中脳・橋・延髄に分けられます。

  • 中脳
    中脳は、大脳と脊髄・小脳を結ぶ管上の伝導経路です。また、視覚や聴覚で感覚した刺激に対する反射運動を司るなどの重要な役割を担っています。


  • 中脳と延髄の間にある伝達系です。

  • 延髄
    延髄は、脳の最下部にあり、脊髄につながる部分です。また、呼吸と循環という、生命を維持するための根本的な機能を制御する、生きる上で非常に重要な部位です。

2. 高次脳機能障害について

2-1. 高次脳機能障害とは

では、次に頭部外傷による高次脳機能障害について説明します。

交通事故によって頭部外傷を負ってしまった方の中には、事故後に言葉を発することが困難になってしまったり、記憶に異常が出てしまったり、これまでと同じような行動を取ることが困難になってしまったりと、日常生活に支障を来してしまう方がいらっしゃると思います。中には、性格まで変わってしまう方もいらっしゃいます。

このような方は、交通事故による高次脳機能障害を疑い、早期に病院の受診をすることをおすすめいたします。

高次脳機能障害とは、頭部外傷などにより、脳が損傷を受けた際に、主に言語や記憶、注意、情緒といった「認知機能」と呼ばれる脳機能に障害が出ることです。

2-2. 高次脳機能障害として認定される3つの要件

では、どのような場合に高次脳機能障害と認定されるのでしょうか。自賠責保険において、高次脳機能障害として認定されるためには、以下の3要件が必要になります。

  • 頭部外傷後に、意識障害または健忘症や軽度意識障害が存在すること
  • 頭部外傷を示す傷病名が、診断書に記載されていること
  • 傷病名が画像で確認できること

では、それぞれの要件について説明していきます。

① 頭部外傷後に、意識障害または健忘症や軽度意識障害が存在すること

高次脳機能障害を伴う交通事故では、地面等に頭部を強く打ちつけて受傷するケースがほとんどです。頭部を打ちつけるのですから、程度が強いほど、意識状態にも影響が出ます。このことを「意識障害」と言います。

意識障害については、下記表のような「JCS」「GCS」といった意識レベル表を用いて判断します。JCSでは、3桁が重度な意識障害で、GCSでは、点数が低いほど重度な意識障害となります。

意識障害JCS

覚醒している
(1桁の点数で表現)

  • 0 意識清明
  • 1(Ⅰ – 1)見当識はたもたれているが、意識清明ではない
  • 2(Ⅰ – 2)見当識障害がある
  • 3(Ⅰ – 3)自分の名前・生年月日が言えない

刺激に応じて一時的に覚醒する
(2桁の点数で表現)

  • 10(Ⅱ – 1)普通の呼びかけで開眼
  • 20(Ⅱ – 2)大声で呼びかける、強く揺するなどで開眼
  • 30(Ⅱ – 3)痛刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼

刺激しても覚醒しない
(3桁の点数で表現)

  • 100(Ⅲ – 1)痛みに対し払いのけるなどの動作をする
  • 200(Ⅲ – 2)痛刺激で手足を動かす、顔をしかめたりする
  • 300(Ⅲ – 3)痛刺激に対して全く反応しない

乳幼児意識レベルの点数評価JCS

刺激しないでも覚醒している
(1桁の点数で表現)

  • 1 あやすと笑う。ただし不十分で声を出して笑わない
  • 2 あやしても笑わないが視線は合う
  • 3 母親と視線が合わない

刺激すると覚醒する
(2桁の点数で表現)

  • 10 飲み物を見せると飲もうとする。あるいは乳首を見せればほしがって吸う
  • 20 呼びかけると開眼して目を向ける
  • 30 呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する

刺激しても覚醒しない
(3桁の点数で表現)

  • 100 痛刺激に対し、払いのけるなどの動作をする
  • 200 痛刺激で少し手足を動かす、顔をしかめたりする
  • 300 痛刺激に対して全く反応しない

GCS

E○点 + V○点 + M○点 = 合計○点、と表現
正常は15点満点、深昏睡は3点、点数は小さいほど重症

開眼機能 E(Eye opening)

  • 4 自発的に、または普通の呼びかけで開眼
  • 3 強く呼びかけると開眼
  • 2 痛刺激で開眼
  • 1 痛刺激でも開眼しない

言語機能 V(Verbal response)

  • 5 見当識が保たれている
  • 4 会話は成立するが見当識は混乱
  • 3 発語は見られるが会話は成立しない
  • 2 意味のない発声
  • 1 発語みられず

運動機能 M(Motor response)

  • 6 命令に従って四肢を動かす
  • 5 痛刺激に対して手で払いのける
  • 4 指への痛刺激に対して四肢を引っ込める
  • 3 痛刺激に対して緩徐な屈曲運動
  • 2 痛刺激に対して緩徐な伸展運動
  • 1 運動みられず

また、外傷性健忘については、以下の「PTA」が重傷度の指標となります。

PT(外傷後健忘)について

  • わずかな脳震盪
    【PTAの持続期間】0〜15分

  • 軽度の脳震盪
    【PTAの持続期間】1.5〜1時間

  • 中程度の脳震盪
    【PTAの持続期間】1〜24時間

  • 重度の脳震盪
    【PTAの持続期間】1〜7日間

  • 非常に重度な脳震盪
    【PTAの持続期間】7日間以上

3つの要件の中で、意識障害所見は、最も重要な要件となります。つまり、意識障害のレベルが認定等級に直結していると言えます。

意識障害(重度・軽度)として認定されるためには、以下が目安になりますのでご参考ください。

重度の意識障害(6時間継続)

  • 意識障害の程度
    頭部外傷後の意識障害(半昏睡〜昏睡で開眼・応答しない状態)
    JCSが3〜2桁、GCSが12点以下

  • 意識障害の継続期間
    少なくとも6時間以上継続

  • 高次脳機能障害が残る可能性
    永続的な高次脳機能障害が残ることが多い

軽度の意識障害(1週間継続)

  • 意識障害の程度
    健忘症あるいは軽度の意識障害
    JCSが1桁、GCSが13〜14点

  • 意識障害の継続期間
    少なくとも1週間以上継続

  • 高次脳機能障害が残る可能性
    高次脳機能障害を残すことがある

当初の意識障害がどの程度継続したかについては、診療録や看護記録で実際よりも短く記録されたとき、後々それを覆すのは容易なことではありません。

そこで、ご家族の立場から、受傷から6時間、1週間の意識障害の経過を詳細に観察し、その結果をメモ等に残しておくことをおすすめいたします。そうすることで、そのメモを主治医に提出し、意識障害の記載を依頼するという方法が可能となります。

もし、すでに実際より短い意識障害の所見が記載されているときは、入院期間中であれば、主治医も修正に応じてくれる可能性があります。

意識障害や外傷性健忘のエピソードを具体的に記載、説明することで、主治医の理解がより得られやすくなるでしょう。

② 頭部外傷を示す傷病名が、診断書に記載されていること
③ 傷病名が画像で確認できること

頭部外傷を示す傷病名には、下記の種類があります。

  • 脳挫傷
  • 急性硬膜下血腫
  • びまん性軸索損傷 
  • びまん性脳損傷
  • 外傷性脳室出血
  • 外傷性クモ膜下出血
  • 低酸素脳症

前述しているように、高次脳機能障害には様々な症状が現れます。これらの症状は、全て傷病名を出発点としており、症状を傷病名で説明する必要があります。

つまり、診断書に傷病名が記載されていることが必要になります。主治医から口頭で言われただけでは証拠にならないので、注意しましょう。

後遺障害の認定は、被害者との面接等ではなく提出書類で審査が行われるため、診断書に記載されていなければ意味がありません。診断書にきちんと傷病名が記載されているか、事前に主治医に確認をするようにしましょう。

また、これらの傷病がCT等の画像データで確認できることも要件の1つになるため、注意しましょう。

2-3. 3つの要件から想定される、高次脳機能障害認定の可能性

3つの要件を踏まえた上で想定される4つのパターンとそれぞれの高次脳機能障害の認定の可能性について、以下表にまとめてみましたのでご参考ください。

パターン①意識障害②傷病名③画像所見
1
2
3
4

パターン1】
 →  高次脳機能障害の立証に問題はありません。

【パターン2
 →  なんとか立証にこぎ着けるかと思われます。

【パターン3
 →  高次脳機能障害の立証は極めて困難です。

【パターン4
 →  高次脳機能障害は非該当認定となります。

このように、高次脳機能障害を立証するには、脳や脳機能の障害の有無と、残存症状の程度や因果関係をそれぞれ立証しなければなりません。いずれにしても立証の壁は非常に高いです。

交通事故後に、少しでも異変を感じた場合は、病院にて診察を受ける、弁護士に相談する、この2点を直ちに行うことをおすすめいたします。

当事務所にご依頼頂いた際は、弁護士が責任を持って、相談、交渉、書面の確認等全てを行いますので、安心してお任せいただけたらと思います。交通事故後の日常生活の支障に対する補償を適切に受けられるよう、早期の相談をお待ちしております。

交通事故で脊髄損傷を負った方 ー その症状と分類、後遺障害等級認定、損害賠償について解説

交通事故によって脊髄損傷となった場合には、後遺障害等級認定を受けることにより、障害の程度に応じた補償を受けることができます。また、脊髄損傷の場合においても、基本的には他の後遺障害の場合と同様の損害賠償を求めていくことになります。本ページについては、これらについて、概要や問題点等について解説します。

1. 脊髄損傷とは

脊髄損傷とは、文字の通り脊髄が損傷を受けることであり、運動障害や感覚障害などをもたらす状態をさします。

1-1. そもそも脊髄とは・・・?

脊髄とは、延髄と呼ばれる脳幹の下方組織の続きとして、頭蓋骨に続く脊柱の中央を上下に貫く脊柱の中に入っている白色の紐状の束となっている器官のことを指します。

脊髄は、脳と共に中枢神経を構成しており、この中枢神経が、体と脳を繋ぐ役割(神経伝達機能)を果たしているため、脊髄が損傷されると脳から体(又は体から脳)への信号が上手く送れなくなってしまい、その結果、麻痺を代表とする症状を発症することになります。

神経は、上方から下方へと流れていますので、上方の脊髄を損傷すると、損傷した箇所以下の神経支配領域に麻痺などの症状を残すことになります。また、脊髄損傷は直接的な症状だけでなく多くの合併症を発症しやすい傷病でもあります。
脊髄損傷は、交通事故などを原因として、脊椎が骨折・脱臼することで保護されていた脊髄が圧迫されることで発症します。

脊髄の構造

このように脊髄は、延髄から身体の下に向かって伸びる神経で、腕や足などさまざまな部位の神経に派生してつながっているため、損傷した脊髄の箇所・程度に応じて現れる症状は様々です。

2. 脊髄損傷の症状と分類

脊髄損傷の主な症状としては

  • 手足が動かなくなる、感覚がなくなる
  • しびれ
  • 呼吸運動障害
  • 排尿、排便障害
  • 自律神経障害(体温調節・代謝機能などの喪失・低下)

等が挙げられます。

また、脊髄損傷は「損傷の程度」と「症状の現れる部位」によって分類することができます。

損傷の程度による分類

  • 完全損傷
    脊髄が横断的に離断されることにより神経伝達機能が完全に断たれること。完全損傷の場合には損傷部位以下の機能が完全に麻痺してしまう。

  • 不完全損傷
    脊髄が横断的に離断されているわけではないけれども損傷しているという状態。この場合でも麻痺を含む様々な症状を発症することになる。

症状の部位による分類

  • 単麻痺
    脊髄を損傷したことにより、1つの上肢・下肢に麻痺や機能障害を残す状態のこと

  • 片麻痺
    脊髄を損傷したことにより、片方の上肢・下肢に麻痺や機能障害を残す状態のこと

  • 対麻痺
    胸髄、腰髄、仙髄、馬尾の損傷によって両下肢及び骨盤臓器に麻痺や機能障害を残す状態のこと

  • 四肢麻痺
    頸髄を損傷することによって両上肢両下肢及び骨盤臓器に麻痺や機能障害を残す状態のこと
脊髄損傷の症状による分類

中でも、麻痺の程度は、高度・中度・低度の3つに分類することができます。

麻痺の程度

  • 高度
    障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作(下肢においては歩行や立位、上肢においては物を持ち上げて移動させること)ができないもの

  • 中度
    障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作にかなりの制限があるもの

  • 低度
    障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているもの

3. 脊髄損傷の治療について

脊髄を取り囲んでいる脊椎は、骨であるため、基本的に修復が可能です。しかし、脊髄は神経であるため、残念なことに、一度損傷を受けてしまうと、元に戻ることはありません。

よって、脊髄を損傷した場合の治療法としては、神経と身体の機能回復を図り、残存機能をうまく機能させて日常生活が送れるように、地道に脊椎の安定とリハビリを行うことが、主な治療法となります。

脊椎を損傷して間もない急性期は、一刻も早くリハビリを開始して、脊髄と脊椎の骨を修復していきます。脊椎がずれるなどして安定せず、身体を動かすと麻痺や障害の範囲が広がる恐れがあると判断された場合は、まずは装具や手術で脊椎の安定を図る治療法が一般的です。

また、損傷個所が脊椎ではなく頸椎の場合は、呼吸障害、低血圧、徐脈などの症状が出てしまうため、生命維持を行うために集中治療室での管理治療が行われる場合もあります。

4. 脊髄損傷の後遺障害等級認定基準

脊髄損傷は、前述のとおり、基本的に回復することはありません。

よって、交通事故によって脊髄損傷となった場合には、後遺障害等級認定を受けることにより、障害の程度に応じた補償を受けることができます。

脊髄の損傷による障害は、前述した分類を考慮し、次の7段階に区分して、等級を認定することとなります。

第 1 級 1 号
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」

  • 高度の四肢麻痺、対麻痺の場合
  • 中等度の四肢麻痺、対麻痺で、かつ食事・入浴・用便・更衣など常に介護を要する場合
  • 高度の単麻痺で、かつ食事・入浴・用便・更衣など常に介護を要する場合

第 2 級 1 号
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」

  • 中等度の四肢麻痺の場合
  • 軽度の四肢麻痺で、かつ食事・入浴・用便・更衣などに随時介護を要する場合
  • 中等度の対麻痺で、かつ食事・入浴・用便・更衣などに随時介護を要する場合

第 3 級 3 号
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服する事ができないもの」

  • 軽度の四肢麻痺の場合
  • 中程度の対麻痺の場合

第 5 級 2 号
「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服する事ができないもの」

  • 軽度の対麻痺の場合
  • 高度の一下肢の単麻痺の場合

第 7 級 4 号
「神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外に服する事ができないもの」

  • 中等度の一下肢の単麻痺

第 9 級 10 号
「神経系統の機能または精神に障害を残し、服する事ができる労務が相当な程度に制限されるもの」

  • 軽度の一下肢の単麻痺

第 12 級 13 号
「局部に頑固な神経症状を残すもの」

  • 軽微な麻痺
  • 運動障害はないが、広範囲にわたる感覚障害

5. 脊髄損傷の後遺障害等級認定と問題点

5-1. 等級認定について

脊髄損傷の場合の後遺障害認定基準は、前述した「脊髄損傷の後遺障害等級認定基準」において説明したとおりですが、後遺障害の等級認定においては、脊髄損傷(麻痺の範囲及び程度)の裏付けとなる所見の存在が必要となります。

また、被害者の訴える症状と各検査における所見の整合性、症状の経過や推移、事故の衝撃の程度などを総合的にみて、麻痺の範囲や程度などが検討・判断されることになります。

自賠責保険では、後遺障害診断書の他に、脊髄症状の具体的な程度の判定や神経学的所見に関する資料、また、これらを裏付けるCT・MRI等の画像や検査所見、さらに被害者の日常生活における動作能力や生活状況を示す報告書などの資料を提出し、等級認定を受けることになります。

5-2. 等級認定に関する診断・検査方法

後遺障害の認定を受けるためには、主治医に、適切な後遺障害の診断書を作成してもらうことが非常に重要になります。しかし、診断書を作成するのは症状固定時、つまり、治療が一段落ついたタイミングになるため、その間に適切な検査を行っておく必要があります。

① 神経学的検査

神経学的検査においては、深部腱反射の減弱・消失や、病的な反射の有無を調べたり、徒手筋力テストといった筋力の検査、膀胱や肛門括約筋機能の検査、感覚テスト等を行うことにより、脊髄損傷の起きている範囲(損傷高位)と程度が検討されます。

病的反射テストと呼ばれるものは、脊髄損傷をしている場合にのみ見られる反射運動なので非常に重要です。頚髄損傷の場合は、ホフマン反射やトレムナー反射、腰髄損傷の場合はバビンスキー反射や膝クローヌス・足クローヌスなどの検査が考えられます。

② 画像検査

  • X線検査

    脊椎の骨折や脱臼等の確認、脊柱の不安定性の評価のために、X線検査によって傷害部位の診断がなされることがあります。
    X線検査によって脊椎に骨折や脱臼などの損傷がある場合には、その中の脊髄も損傷している可能性があります。また、頸椎症や脊柱管狭窄症などの脊髄圧迫所見が見込まれる場合には、骨折等を伴わない低度の衝撃でも脊髄が損傷する恐れがあります。

  • CT、MRI撮影

    X線検査線検査は主に骨の状態を見るものであるため、神経は写りません。
    脊髄損傷が疑われる場合には、CTやMRIを撮影して、具体的な脊髄の損傷部位が診断されます。脊髄損傷における所見としては、特に制度の高いMRI検査の所見が重要視されています。

脊髄損傷では、これらの画像診断における所見が非常に重要な診断根拠となります。画像診断のみで損傷が明らかにならない場合には、神経学的検査や電気生理学的検査を補助的に行い、診断を行うこととなります。

③ 電気生理学的検査

脊髄は神経の束であり、神経は電気信号を伝達するものです。よって、電気によって刺激を与え、その神経刺激による異常波を観測することで、脊髄の損傷の有無、また損傷の部位を判断します。この電気生理学的検査は、筋力低下、麻痺、筋萎縮などの診断に有用とされています。

これらの検査を適切に行い、治療を継続し、その記録を正確に残しておくことで、最終的に後遺障害の申請をする際に、実際に生じている障害を説明・立証することができるようになります。検査により、脊髄損傷を裏付ける結果が出た場合、医師にその所見をきちんとカルテ等に記載してもらえば、適切な等級認定の獲得につながります。

5-3. 脊髄障害の等級認定に関する問題点

① 中心性頚髄損傷

脊髄損傷の診断がなされる場合に、「中心性頚髄損傷」と診断される場合があります。

中心性頚髄損傷とは、骨傷を伴わないもしくは骨傷が明らかでない脊髄不全損傷で、頚髄が完全に損傷するのではなく、頚髄の中心部分だけに損傷が生じる脊髄損傷をいいます。頸部が急に後ろに反り返ることにより、頸随の中心部が損傷を受けて、上肢や下肢に運動障害が発生したり、疼痛やピリピリするような痺れが発生したりする症状が現れます。

MRI検査で高輝度所見がない頸椎症やむち打ちの症状が混在しており、画像によって所見が確認できないケースも多いことから、脊髄障害と認定されずに問題となるケースが非常に多いのです。

よって、認定を得るためには、医学的所見や症状の経過を慎重に検討する必要があります。仮に、脊髄損傷として認定されない場合には、末梢神経障害や非器質性精神障害(転換性障害、外傷性神経症、うつ病など)として認定が受けられないかどうかについて検討する必要があります。

② 経年性の変形が認められる場合

椎間板ヘルニアや後縦靱帯骨化症、脊柱管狭窄症など、経年性の脊椎変形が認められる場合、それらの症状の原因がそもそも交通事故にあるのかどうかといった点で問題となるケースがあります。

このような場合、脊髄損傷を基礎づける所見や症状経過の有無、他の原因の可能性などを、画像検査等の結果を踏まえて慎重に判断されることとなります。

これらの経年性の変性の原因が元々罹患していた疾患であると認められ、損害の発生や拡大に影響している場合には、その影響の度合いにより、賠償額の減額が認められる場合があります。

③ 画像上・神経学上の異常所見が認められない場合

脊髄障害が疑われるような症状が残存しているが異常所見がない、そのような場合は、脊髄損傷と認定されることは極めて困難です。

脊髄障害と認められない場合であっても、事故後、一貫して神経症状を訴えている場合は、末梢神経障害として認定されたり、それも認められないケースでは非器質性精神障害として認定されることがあります。

④ 症状の経過が一般的な傾向と整合しない場合

脊髄障害の症状は、事故直後に最も重篤となるケースが多いです。しかし、事故から少し時間が経過した後に症状が悪化したり、傷病名が変遷するようなケースもあります。

このような場合、交通事故の詳細、通常の病態との乖離の状況などを踏まえて、医学的に合理的な説明ができない場合には、脊髄障害が否定されてしまう可能性があります。

6. 脊髄損傷の損害賠償

脊髄損傷の場合においても、基本的には他の後遺障害の場合と同様の損害賠償を求めていくことになります。

交通事故により脊髄損傷を負った場合の損害賠償の費目は、他の後遺障害と同様、傷害部分と後遺障害部分とに大きく分かれ、傷害部分については、治療費、入院雑費、通院交通費、休業損害、通院慰謝料などがあり、後遺障害部分については、後遺障害慰謝料・後遺障害逸失利益・将来介護費などがあります。

脊髄損傷を負った場合に特に問題になる損害は、

  1. 住宅改造費
  2. 自動車改造費・介護車両費
  3. 将来介護費
  4. 将来治療費・将来手術費

などです。以下、詳しく説明していきます。

6-1. 住宅改造費

交通事故により脊髄損傷を負ってしまうと、後遺障害によって生じる日常生活上の困難をできる限り回避するために、車椅子を使えるように自宅の段差を解消したり、浴室やトイレを介護用に改造したりするなど、自宅を改築あるいは新築したり、移動に便利なように設備を設置する必要が生ずることが多いです。

この場合、後遺障害の程度や生活環境等を考慮し、身体機能を補うために必要かつ相当な限度で、賠償が認められます。

自宅を改築・改造、あるいは購入するのに支出した費用がそのまま全額損害額として認められる場合もありますが、多くのケースでは、後遺障害の程度や生活環境などを考慮し、改築等の必要性、支出額の相当性が認められる範囲で、賠償が認められています。

自宅が改造に適さず、新たに住宅を購入する必要性がある場合は、通常住宅の新築費用と介護用の新しい住宅の新築費用の差額のみ、といった算定がなされ、同居家族も便益を受ける場合は、一定金額が減額される可能性があります。

同様に、新築ではなく介護に対応した他の賃貸住宅に転居するという場合、原則的には、転居費用のほか、通常住宅と介護用の住宅の家賃の差額のみが損害として認められます。

6-2. 自動車改造費・介護車両費

交通事故により脊髄損傷を負い車椅子生活になってしまった被害者が自立した生活を営むためには、上肢だけで運転ができるように車両を改造する、もしくは、車椅子のまま乗れる車両が必要となります。

自動車を改造する必要がある場合、自動車改造費については、住宅改造費と同様、後遺障害の程度や生活環境等を考慮して、身体機能を補うために必要かつ相当な限度で、賠償が認められます。また、被害者以外の家族も乗る場合には、その家族の利便性を考えて、車両購入費の一部のみを損害とする場合もあります。

新たに介護用自動車を購入する場合は、購入費用全額ではなく、原則的には、通常の自動車と介護用の自動車の差額のみが損害として認められます。

6-3. 将来介護費

交通事故により脊髄損傷を負い、症状固定後も在宅で親族や職業介護人の介護が必要な場合は、将来の介護費が損害として認められる可能性があります。将来の介護費は、介護者が近親者介護人か職業介護人かを区別し、さらに介護する親族の有無や就労状況、具体的な介護の態様を考慮して算定されます。

原則としては、「1年間の介護費の評価額×症状固定時における平均余命に対応するライプニッツ係数」で計算されます。1年間の介護費の評価額は、近親者介護人の場合は、常時介護を要する場合で日額8000円が一応の基準とされていますが、具体的な介護の態様を考慮して、増額されることもあります。職業介護人の場合は、必要かつ相当な実費として、8000円から2万5000円程度の範囲で認められています。

また、必ずしも、職業人介護と近親者介護の二者択一になるというわけではなく、例えば、被害者が若年の場合、介護にあたる近親者の就労可能年数(67歳まで)は近親者介護前提の介護料、その後は職業人介護前提の介護料で算定する場合や、近親者が就労している場合は、平日のみ職業人介護前提の介護料、休日は近親者介護前提の介護料、といった算定方法を採用する場合もあります。

介護が要件とされていない3級以下の後遺障害等級であっても、排尿・排便、食事、入浴、体位変換、衣服着脱などの日常生活に支障がある場合には介護費用が認められる傾向にあります。もっとも、将来労務に服することが困難であっても日常生活動作に支障がない場合には、介護費用は否定される傾向にあります。したがって、3級よりも低い等級では、介護費用が認められる可能性は低いといえます。

さらに、近年、一回の支払で賠償する「一時金賠償」に対して、例えば1か月に一回のように定期的に連続して一定額を支払う「定期金賠償」という賠償方法を認める民事訴訟法117条が新設され、それ以後定期金賠償を採用する判決も出てきています。

交通事故で意識不明が継続してしまった方 ー 遷延性意識障害(植物状態)の概要と損害賠償、問題点について解説

交通事故の最たる被害は当然死亡事故ですが、死亡事故に匹敵するほどの重症な障害として「植物状態」という被害があります。「植物状態」とは、脳に大きなダメージを負うことで、意識不明のまま寝たきりの状態が続くことを言います。最も重い後遺障害とされています。

植物状態といわれる状態は、「遷延性意識障害」であることを指します。本ページでは、では、遷延性意識障害とはどのような障害なのか、遷延性意識障害についての後遺障害慰謝料はどのようになっているのか、について具体的にご説明します。

1. 植物状態とは

植物状態は、下記の6つの症状が、3ヶ月以上続く状態のことを指します。

  • 自力で移動ができない
  • 自力で摂食することができない
  • 便、尿失禁
  • 声は出せても意思疎通ができない
  • 開眼、手を握る等の簡単な命令には応答できるが、それ以上の意思疎通はできない
  • 眼球が物を追うことはできても、それ以上の認識はできない

「脳死」と同じ状態と思われている方が非常に多いですが、「脳死」と「植物状態」の違いは、植物状態は自発呼吸ができるのに対し、脳死はそれができないということです。また、植物状態といわれる状態は、「遷延性意識障害」であることを指します。遷延性意識障害の原因となるのは、交通事故などによる頭部・脳への強いダメージです。

植物状態になってしまうと、ご本人はもちろんですが、介護をするご家族などの精神的・経済的・肉体的な負担も非常に大きくなってしまいます。

では、遷延性意識障害とはどのような障害なのか、遷延性意識障害についての後遺障害慰謝料はどのようになっているのか、について具体的にご説明します。

2. 植物状態の後遺障害等級

交通事故によって植物状態となり、後遺障害認定を申請した場合、認定される後遺障害等級は以下のようになります。

1 級 1 号
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

【認定基準】
「常に介護を要する」とは、次の1、2のいずれかに該当すること

  1. 食事、入浴、用便、更衣などに常時介護を要する
  2. 高次脳機能障害による高度の痴呆や情意の荒廃があるため、常時監視を要する

これは、後遺障害等級の中で最も重いものになります。遷延性意識障害で植物状態になってしまうと、元の健康な状態に戻ることは難しいと言えます。回復したケースもみられますが、ほとんどの場合は常に介護を要する寝たきりの状態になってしまう可能性が高いといえます。

後遺障害第1級と認定されれば、自賠責保険からは、4000万円を上限とした保険金が支払われます。

3. 遷延性意識障害の損害賠償について

3-1. 慰謝料の相場

慰謝料の金額は、相手方が算定に使用する基準(自賠責基準・任意保険基準)と、弁護士が算定に使用する基準とで大きく異なります。

交通事故による植物状態に対応する後遺障害慰謝料は以下のようになります。

  • 自賠責基準
    1600万円

  • 弁護士基準
    2800万円

弁護士に依頼することで、約1.75倍の後遺障害慰謝料を請求することができます。慰謝料の増額を希望される方は、早い段階からの弁護士への相談が重要になります。

また、ここで示している後遺障害慰謝料は、交通事故で受けた被害に対する損害賠償の一つです。損害賠償としては、後遺障害慰謝料にくわえて、治療費・介護費用、休業損害など様々な損害が合計されることになります。

3-2. 損害賠償の概要

遷延性意識障害は、常時介護を要する状態になってしまう状態であるため、損害賠償額は、自賠責保険や自動車保険からの既払分を差し引いても、2~3億円となることは珍しくありません。また、裁判所で認定される金額も、一般的に非常に高額となるケースが多いといえます。

3-3. 問題となる損害項目

ここでは、遷延性意識障害において問題となる賠償上の項目について説明します。

遷延性意識障害となってしまった場合、被害者の方に付き添い、看護をしていくために非常に大変な労力を伴います。加害者側と賠償の交渉をする際には、事故から現在まで取り組んできたことの労力を評価するほか、将来必要となる労力・費用を評価して、賠償を受けることになります。

遷延性意識障害において特に問題となるのは、将来の介護費用です。遷延性意識障害の場合、問題・論点となる将来の介護費用としては以下のものがあります。

① 自宅での介護費用

植物状態となった被害者の介護は24時間にわたります。自宅で24時間にわたる介護は、介護者にとって大変な負担となります。介護者の体力にも限界があります。負担軽減のために、職業介護人を雇う必要が出てくる場合もあります。

介護費は、日額の付添介護費に、平均余命を掛け合わせて計算して決められることが多いです。例えば、裁判実務上参照される基準によれば、医師の指示または症状の程度により、必要があれば被害者本人の損害として認めるとし、職業介護人は実費全額、介護者の付添介護費は、1日8,000円と評価する基準が紹介されています。裁判例によっては、事案の特性を踏まえ、これより高い金額が認められるケースもあります。

職業人付添人の介護費用は非常に高額になることが多いため、この必要性をめぐって論点になることも多いです。

② 自宅・自動車の改造費用

自宅での介護となった場合、自宅の部屋や玄関、廊下、ドア、洗面所、浴室等、様々な箇所を介護仕様に改造する必要が生じてきます。裁判例では、これらは被害者の介護に必要かつ相当と言える場合に損害として認められていますが、家族の便益にも供される場合には、一定の減額がなされる場合もあります。

また、介護のために必要な土地を購入して介護用の住宅を新しく建築した場合も、在宅介護用の住宅取得費用と通常の住宅取得費用の差額について、事故に起因する損害として認められる場合もあります。

また、自動車の改造費についても、住宅と同様、必要かつ相当と認められる費用については、事故に起因する損害として認められる場合があります。

③ 介護用品やその他消耗品の費用

将来、必要となる介護用品その他の消耗品等の雑費についても、必要かつ相当と認定されれば、賠償の対象となります。

裁判上認められた例としては、

おむつ代、エプロン代、ゴム手袋代、人工的な導尿のためのカテーテル代、自宅改造で設置したスロープ、 介護ベッド、 介護リフト、浴室リフト、シャワーキャリー等の各設置費用及びそれらの保守管理費用、蘇生バッグ、痰吸引器及び吸入器、パルスオキシメーター及び血圧計等の医療機器の備置き費用、空気清浄機などのレンタル・購入費

が挙げられます。

このように、一口に「将来の介護費用」といっても、介護の具体的内容・状況に応じて損害賠償の内容も変わってきます。分からないことも多々あるかと思いますので、まずは私ども弁護士に一度ご相談ください。

4. 遷延性意識障害の主な問題点について

4-1. 成年後見問題

交通事故で遷延性意識障害になってしまった時、成年後見問題が必ず絡んできます。

健常者であれば、日常生活を自分の判断で行うことができます。しかし、このような日常生活上の必要な判断を自分で行うことができなくなってしまった方は、自分で財産の管理を行うことができなくなります。そこで、このような方の代わりに財産管理を行ってくれる人の選任を行うことが、成年後見制度です。

では、なぜ、成年後見制度が関係してくるのでしょうか。

一番の理由は、「損害賠償請求」です。交通事故の被害者は、加害者に対して損害賠償請求権を有しています。遷延性意識障害になった被害者の方も、この損害賠償請求権を有しています。この損害賠償請求権を行使するのも財産管理の一環であり、被害者の代わりに損害賠償請求権を行使する人として、成年後見人が必要になるのです。

後遺障害を負った人が未成年の場合は、両親が法定代理人として弁護士への依頼や損害賠償交渉を行えます。しかし、後遺障害を負った時点で成人している場合、自身では損害賠償の交渉をすることや弁護士への依頼をすることができないため、成年後見人が選任される必要があります。

また他にも、銀行でお金を引き出そうとする際、口座名義人が遷延性意識障害になったということが判明すると、口座から出金できない場合があります。このような時は、成年後見人でないと口座から預貯金をおろすことができません。

一般的に、被害者の家族もしくは親族が成年後見人になることが多いのですが、弁護士が成年後見人となることにより、様々な手続きを迅速に進めることができ、損害賠償請求についても適正な金額を得ることができると言ったメリットがあります。

4-2. 平均余命の問題

通常の損害賠償金額の計算方法の場合、被害者の平均余命までの損害を対象とします。

しかし、交通事故で植物状態となった方の推定余命を口頭弁論終結時から10年間とした原判決を支持する最高裁判決や、それを支持する有力学説などがあることから、加害者側が「遷延性意識障害者の余命は健常人の平均余命より短い」などと主張し、将来の介護費用や逸失利益の計算などをめぐって、賠償金の減額を求めてくることがあります。

これまでの裁判例では、この余命制限を採用しないといった意見が多く占めていますが、保険会社からの提案については、交通事故に詳しい弁護士に相談し、必ず妥当性を確認してから合意することをおすすめいたします。

4-3. 定期金賠償問題

被害者が植物状態となった場合や、介護を要するほどの手足の麻痺などの重度の後遺障害が残ってしまった場合は、一定の金額を、確定した期間もしくは不確定の期間にわたって定期的に支払うというような内容の示談や、これを命じる内容の判決がなされることがあります。これを定期金賠償方式と呼びます。

被害者の方が植物状態になってしまった場合、その先ずっと介護が必要になるため、将来介護費用が賠償されなければなりませんが、何十年もの長い期間介護が必要になるケースも多くあり、そのような場合、最終的にどのくらいの介護費用が発生するのか予測できません。このような不都合を避けるために用いられるのが、定期金賠償方式です。

法律上、定期金賠償を定義した条文はありませんが、定期金賠償を前提とした条文は存在し、被害者側から定期金賠償方式での損害賠償請求を行うことも可能です。

しかし、原告が一時金賠償の方法での賠償しか求めていないのに対し、裁判所が定期金賠償を認めても良いのかどうかといった問題があります。この点においては、下級審判例では、原告が請求していなくても、定期金賠償を認める傾向にあります。原告側としては、一時金賠償の方法で求めることが一般的ですが、場合によってはこのような方法もあり得るといえます。

実際に、平成25年において、

  • 現時点において、被害者の明確な余命の予測が困難であること
  • 本件において、平均余命を前提として一時金で介護費用の賠償を認めた場合には、賠償額に過多もしくは過少が生じ、当事者間の公平を著しく欠く恐れがあること
  • 賠償業務を負う保険会社の企業規模に照らし、将来にわたって履行が確保できるといえること

以上を根拠に、定期金による賠償を認めた裁判例もあります。

① 定期金賠償のメリット

  1. 植物状態となった場合、長期間にわたって介護費用がかかることが予想されるとしても、被害者がいつまで生きることができるのか、介護費用が必要な期間が最終的にどれくらいなのかを、正確に予測することはほとんど不可能です。
    そのような場合、定期金賠償方式であれば、現在支払っている介護費用を基準に認定でき、将来の介護費用の認定の困難さを回避することができます。

  2. 裁判所の認定よりも長生きしたため賠償費用が足りなくなってしまったり、逆に早期に死亡したため家族が得をしたりといった不公平さを回避することができます。

  3. 一時金賠償の場合、高額な賠償金が一括で支払われるため、賠償金が計画的に費消されないために、被害者が亡くなる前に介護費用が尽きてしまう可能性があります。
    しかし、定期金賠償方式では、定期的に賠償金が支払われるため、このようなリスクを回避することができます。
    また、定期金賠償方式であれば、将来介護費用に変動が生じてしまった場合は、その時点で判決の変更を求める事ができ、その時ごとの被害者の生活状況にふさわしい賠償が可能といったメリットがあります。

② 定期金賠償のデメリット

  1. 一時金賠償の場合は、一括払いで賠償金の支払いを受けるため、その後の加害者側の資力を心配する必要はありません。
    しかし、定期金賠償方式の場合、加害者側の資力が悪化してしまった場合、支払いが困難になるといったリスクもあります。支払い義務者が保険会社である場合、心配のない場合が多いですが、数十年後に保険会社が破綻しないとは断言できないため、万が一保険会社が倒産してしまった場合には、以降の賠償金の支払いを受けることができない可能性があります。

  2. 定期金賠償の場合は、将来の事情が不確かなまま、将来の変更がありうることを前提とし、支払いが継続的に行われるため、被害者側に被害感情がいつまでも残ってしまい、被害者の心理として、終局的な解決を図ることができないというデメリットがあります。

5. まとめ

以上のように、植物状態は、死にこそ至りませんが、寝たきりの状態でその後の人生が奪われることになります。そういった状態にも関わらず、相手方の保険会社から提示を受ける損害賠償は、損害に対して不十分であることが多くみられます。

損害に対して補償を十分に受け取るには、弁護士に依頼することがポイントです。保険会社との示談交渉など弁護士に一任することで、慰謝料が増額する可能性が高まり、面倒な手続きからも解放されます。

植物状態におちいったことに対する慰謝料はどのくらいになるのか、後遺障害等級の申請方法など、まずは、当弁護士法人きさらぎに一度ご相談ください。

自転車事故 ー 自動車事故とは異なる特徴や、気になる過失割合・示談について解説

自転車は、子供から大人まで幅広く利用される便利な乗り物です。自動車とは異なり、誰もが乗る乗り物である以上、自転車事故は、誰にでも起こる可能性のある、最も身近な交通事故といって良いでしょう。

現在、日本における自転車の保有台数は世界第6位となっており、日本は、自転車大国といえます。『ながら運転』による歩行者と自転車、自転車と自動車との事故が多いのが現状です。

1. 自転車事故の被害状況と予防策

1-1. 自転車事故の被害状況

平成30年における交通事故の負傷者は約53万人ですが、そのうちの約8万4千人は自転車乗用中に事故にあっています。その件数は、自動車乗用中に次いで2位であり、自転車乗用中の負傷者数は、バイクなどの二輪車乗用中や歩行中の負傷者数を上回っています。

自転車の運転手は事故の加害者になる可能性もありますが、自動車や二輪車と比べると交通弱者であり、被害者となる可能性も非常に高いのが現状です。

1-2. 自転車事故を予防するポイント

「車道は自動車が走っていて不安なので歩道を運転する」という自転車の運転手も多いですが、自転車事故の事故類型では出会い頭の衝突が最多となっています。歩道を走っている自転車は自動車に認定されづらいため、車道に飛び出したときに事故に遭ってしまう可能性が高くなるのです。

交通ルールを順守して車道を走ることは、自身の安全を守ることにもつながるということを覚えておきましょう。

以下が、自転車事故を予防するポイントになります。

自転車安全利用五則

  1. 自転車は、車道が原則、歩道は例外
  2. 車道は左側を走行
  3. 歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行
  4. 安全ルールを守る
  5. 子供はヘルメットを着用

2. 宮崎県における自転車事故

宮崎県における平成30年の自転車事故の統計は、以下のようになります。

発生件数は昨年より減少していますが、非常に件数としては多く、発生した場合多くの方が負傷しているのが現状です。

発生状況

区分平成30年平成29年増減数
発生(件)785875-90
死者(人)16-5
負傷者(人)782862-80
  • 引用元:平成30年宮崎の交通事故 宮崎県警察本部

また、どの年代でも発生している・高校生の発生件数が最も多いといった点から、まさに誰にでも起こりうる事故であるということが分かります。

年代別発生状況

区分発生(件)死者(人)負傷者(人)
幼児11
小学生4847
中学生9291
高校生213218
高齢者1591157
その他272268
合計7851782
  • 引用元:平成30年宮崎の交通事故 宮崎県警察本部

3. 自転車事故の類型

一言に自転車事故といっても、その中にはいくつかの類型があります。


類型①類型②類型③
被害者自転車自転車歩行者
加害者自転車自転車
  • 類型①:車と自転車の事故
    まず、被害者が自転車走行中に加害者側が運転する車と衝突するような類型の自転車事故が考えられます。

  • 類型②:自転車同士の事故
    また、被害者も加害者もともに自転車という類型の自転車事故も考えられます。

  • 類型③:自転車と歩行者の事故
    さらに、被害者が歩行者であり、加害者が運転する自転車に轢かれるような類型の自転車事故も考えられます。

4. 自転車事故の特徴

4-1. 加害者が保険未加入のケースが多い

自動車は自賠責保険への加入が法律上義務付けられているため、加害者が自動車の場合は、保険に加入しているケースがほとんどです。また、車の所有者の多くは、強制加入である自賠責保険に加えて、任意の自動車保険にも別途加入しています。

一方、自転車の場合、自転車保険への加入を義務化する条例を設ける自治体が増えてきてはいるものの、自動車と比較すると自転車保険に加入している人はまだまだ少なく、au損保の調査によると、自転車保険への加入率は全国で56.0となっています。

このように、加害者が自転車の場合に、加害者が保険未加入の場合が多いことが、自転車事故の特徴の一つといえます。

4-2. 過失割合が問題になりやすい

類型①のように、自動車対自転車の事故の場合、怪我を負うのは自転車に乗っていた被害者のみのケースが非常に多いです。しかし、自転車は、道路交通法上は車両としてつまり車と同様に扱われるため、「自転車の過失割合に関しては、単車より有利に修正するものの、歩行者と同程度に有利には修正しない。」これが、基本的な考え方になります。

しかし、一般的に自転車が車両として扱われるという意識がない場合が多く、自分だけが怪我を負っているということもあり、被害者が過失割合に納得しないケースも非常に多いです。

類型②の場合は、車両同士の事故の場合を参考にして考えられますが、車両同士の事故とは当然異なる面もあります。そのため、当事者双方が中々過失割合に納得せず、問題になりやすいといえます。

類型③の場合は、類型①の場合同様、自転車は、道路交通法上は車両として扱われ、車と同様に扱われるため、「過失割合は、自動車と歩行者の事故の場合よりは自転車に有利に修正されるが、歩行者が自転車より有利に扱われることには変わりはない。」これが、基本的な考え方になります。

しかし、やはり、自転車が車両として扱われるという意識に乏しく、歩行者と自転車にそれほどの差はないと考え、加害者が過失割合に納得しないケースも多いです。

4-3. 後遺障害を認定する機関がない

加害者が自動車の交通事故の場合、被害者に後遺障害が残った場合には、加害者の加入する自賠責保険会社を通じて、損害保険料率算出機構が後遺障害の有無及び等級認定を行うことになります。

一方、加害者が自転車の場合、自動車の損害保険料率算出機構のような中立的な立場から後遺障害の有無及び等級を認定する機関は存在しません

そのため、被害者が、医療記録などの資料を根拠に自身の後遺障害の有無や程度を主張したとしても、第三者機関が認定しているわけではないため、加害者側も容易には納得せずに争いになることが多いのが、自転車事故の特徴の一つになります。

5. 自転車事故の流れ

自転車事故の流れ

自転車事故の場合、自動車事故と同様、上図のような流れになります。

自動車事故と同じく、治療を行っても症状が残ってしまった場合には、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。ただ、自転車事故の場合、自賠責保険が適用されませんので、加害者に任意保険がある場合に、任意保険会社に後遺障害を認定してもらうことになります。

しかし、前述の通り、損害保険料率算出機構のように中立の機関ではないこと、後遺障害等級認定の時点で保険金の請求はできないことが特徴であり、自動車事故と比較して難しい部分と言えます。

また、自動車事故と比較した場合に自転車事故で注意が必要なのは、紛争処理センターが使えないという点です。

自動車事故では示談がまとまらない場合、裁判をせず、紛争処理センターで解決することができますが、自転車事故では示談がまとまらない場合は、裁判をせざるを得ません。ただ、裁判となると時間も費用もかかりますので、自動車事故以上に示談で解決せざるを得ない事案が多いのが実態です。

6. 自転車事故の過失割合

過失割合とは、交通事故が発生した原因が、加害者と被害者それぞれにどの程度ずつあるかを割合で示したものになります。たとえ被害者であっても、自転車事故をはじめとした交通事故は、一方だけに過失があるケースは少ないです。よって、過失割合がつくことがほとんどであり、受け取れる賠償金はその割合分引かれることになります。

交通事故は、それぞれ複雑であり、状況や原因も様々ですが、ある程度事故を類型ごとに分類して考えることができます。その事故類型に対して、一定の過失割合の「基準」が定められています。

この基準は、これまでにおこなわれた民事裁判例がもととなっています。

6-1. 過失割合の修正要素

過失割合を決める際は、「別冊判例タイムズ38」「赤い本」といった基準書を用いて決定します。基準書には事故類型に対応する基本の過失割合が設定されており、さらに「修正要素」があるかどうかの検討がおこなわれます。

交通事故における過失割合の修正要素とは、基準となる過失割合をもとにして、それを調整するための加算要素や減算要素のことです。

自転車事故の場合、過失割合の修正要素は非常に多く、注意が必要になります。例として、以下のような行動が修正要素となります。

無灯火で運転・二人乗り・片手運転・両手放し運転・携帯電話の使用・ブレーキ制御機能不動状態での運転・夜間の走行・スピード違反・急な飛び出し・傘差し運転・犬の散歩をしながらの運転・ヘッドホンの使用・徐行義務違反・ベルの不装着や不良・サイズが合っていない自転車に乗っていた、など

6-2. 過失割合の3パターン

ではここで、自転車事故における基本の過失割合を、「自転車対自動車」「自転車対歩行者」「自転車同士」の3パターンに分けて、ご説明します。

① 自転車 対 自動車

自転車対自動車の事故では、自転車のほうが有利となるケースが多いです。

信号のない交差点の出会い頭における自転車と自動車の衝突(道幅は同じ)
→自転車:自動車=20:80

信号のない交差点を直進する自転車と、対向側から右折する自動車の衝突
→自転車:自動車=10:90

自転車は車両であるにもかかわらず車両としての意識が低いため、被害感情が強くなりやすくなります。そのため、自転車事故では過失割合が争いになるケースが多くなっています。

② 自転車 対 歩行者

自転車対歩行者の事故では、歩行者のほうが有利となるケースが多いです。自転車は、道路交通法上、車両として扱われるため、歩行者より、過失割合は不利になるケースが多いです。

横断歩道を横切る自転車と横断歩道を渡る歩行者の衝突(信号なし)
→自転車:歩行者=100:0

歩車道区別のない道路の左端側を通行する歩行者に自転車が追突または正面衝突
→自転車:歩行者=95:5

対歩行者の事故の場合、歩行者側にも一定程度の過失があると認められやすい傾向にありますが、それでもやはり、基本的には自転車のほうの過失が大きいと判断されるケースが多いのが実際です。

③ 自転車同士

自転車同士の事故については、記載がないため、過去の判例などを参考に過失割合を決めていくことになります。

判例自体はたくさんありますので、どれくらいの過失割合が妥当なのか、分かりにくくなってしまいます。よって、自転車同士の事故に遭ってしまった方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

過失割合については、保険会社から提示を受けることがほとんどです。ですが、実際、提示を受けたところで、その提示された過失割合が妥当なものかどうか、分からない方がほとんどのことと思います。保険会社が提示した過失割合をただ鵜呑みにしていては、損をしてしまう可能性があります。

過失割合について疑問点がある方、不満がある方、ぜひ一度当事務所にご相談ください。

7. 自転車事故の示談と示談金

自転車事故で負った損害は、もちろん、自動車事故と同様、加害者側に請求することができます。

示談においては、被害者側の保険会社と加害者側が交渉をして賠償金の金額を決定します。また、示談金には、治療費や慰謝料、休業損害等の全てが含まれます。つまり、自転車事故における慰謝料は、示談金の一部と言うことになります。

基本的に、慰謝料を受け取りできるのは示談が成立した後になります。

7-1. 自転車事故における示談金の項目について

示談金には、被害者が事故で負った様々な損害の賠償が含まれます。

怪我の治療費だけでなく、病院までの交通費や入院雑費なども請求できます。入院や通院によって仕事を休むことを余儀なくされた場合は、それによって失われた収入も休業補償として請求できます。

また、慰謝料には、怪我をした場合に支払われる傷害慰謝料のほか、後遺障害が残ってしまった場合に支払われる後遺障害慰謝料といったものも存在します。

また、後遺障害の影響によって失われる将来の収入も逸失利益として請求できます。ただし、これらを請求するためには、後遺障害等級の認定を申請して認められる必要があります。

7-2. 示談金の受取について

示談金の受取までの流れは、以下のような流れになります。

自転車事故の示談金受取までの流れ

示談交渉は、被害者の負った損害額の総額が計算できるようになったタイミングで始まるため、基本的に怪我の治療が完了するまで、つまり症状固定したタイミングで開始されます。

そのため、怪我の状態によっては、開始までに1年以上かかる場合があり、また、示談が開始してからも、多くのケースでは1ヶ月~半年程度の時間がかかります。示談交渉は、時間や手間がかかってしまいますが、損害賠償の請求には時効があるため、可能な限り早くから手続きを進めておく必要があります。

また、示談が難航してしまい、裁判になってしまう可能性ももちろんあります。その場合は、解決までにさらに時間や手続きがかかってしまいます。

通常、示談は加害者本人とではなく、加害者側の保険会社と行います。保険会社の担当者は、示談交渉の経験豊富なプロであるため、被害者本人が示談に挑むと、不利になる場合が多々あります。

私ども弁護士は、示談交渉や裁判の提起を代理で行いますので、弁護士に依頼していただくことで、被害者の方の負担を減らすことができます。また、慰謝料等の金額も変わってくる可能性が大いにあります。示談金の金額は、事故直後からの対応で変わってきます。後の示談を見据えて、自転車事故が発生した際は、早めの対応をおすすめいたします。

弁護士への無料相談は、もちろん示談が始まる前から可能ですので、自転車事故でお悩みの方は、ぜひ一度、当弁護士法人きさらぎの無料相談に一度お越しください。

バイク事故 ー 重症を負うケースが多いバイク事故について、後遺症と慰謝料、過失割合などについて解説

高校生から高齢者まで幅広い世代で利用されている自動二輪や原動機付自転車等のバイクは、私たちの日常に深く関わっています。しかしながら、バイク事故は自動車事故とは異なる点も非常に多く、バイク事故に関する正確な知識、バイク事故の特徴をしっかりと把握しておくことが大切です。

1. バイク事故の現状

自動二輪や原動機付自転車等のバイクは、車に比べてコンパクトであり運転もしやすく、免許の取得のための期間も短く、また費用も安いことから、高校生から高齢者まで幅広い世代で利用されています。

バイクの保有台数は、2018年時点で、日本全国で約362万台、宮崎県では約38千台が保有されており、私たちの日常にバイクは深く関わっています。

しかしながら、バイク事故は自動車事故とは異なる点も非常に多く、バイク乗車中に事故に遭遇された方は、バイク事故に関する正確な知識、バイク事故の特徴をしっかりと把握しておくことが大切であり、事故解決のために非常に重要となります。

1-1. バイク事故は死亡率が高い

交通事故による致死率
  • 引用元:平成30年中の交通事故の発生状況/警察庁

上のグラフは、自動車・自動二輪車の交通事故による致死率を比較したものになります。

グラフを見たら分かるように、自動車と比較すると、自動二輪車は34倍ほど死亡するリスクが高く、自動二輪車の致死率が突出しています。

死者数で比較をしても、乗用車の死亡者数は1197人、自動二輪車の死亡者数は401人となっています。死亡者数だけで見ると乗用車の方が多いですが、保有台数を考慮すると、自動二輪車の死亡率は非常に高くなっています。

1-2. 死亡原因

死亡原因となった損傷部位の比較
  • 引用元:平成30年中の交通事故の発生状況/警察庁

上のグラフは、自動車とバイクの死亡事故における死亡原因となった部位の比較を示したものになります。

バイク事故においては、自動車事故と比較して、頭部の損傷が致命傷となるケースが多いことが分かります。

負傷事故における損傷部位の比較
  • 引用元:平成30年中の交通事故の発生状況/警察庁

次のグラフは、負傷事故における損傷部位の比較を示したものになります。

自動車事故の多くは、むち打ちなど頸部の損傷が原因です。対して、バイク事故においては、自動車事故ではほとんど見られない腕や脚の損傷が非常に多いことが分かります。

バイク事故から身を守るためには、ヘルメットの着用が非常に重要です。なお、バイク運転時のヘルメットの着用は、道路交通法で義務づけられています(道路交通法71条の4)。

また、腕や脚の保護のために、手袋やブーツを身につける、夏でも半袖半ズボンは控えるといった服装への注意が必要です。厚手の服を着ているだけでも、損傷の程度を軽減できるといえます。

2. 宮崎県におけるバイク事故

宮崎県における平成30年の自転車事故の統計は、以下のようになります。

発生件数は昨年より減少していますが、非常に件数としては多く、自転車事故と同様、発生した場合多くの方が負傷しているのが現状です。

発生状況

区分平成30年平成29年増減数
発生(件)597700-103
死者(人)13-2
負傷者(人)536620-84
  • 引用元:平成30年宮崎の交通事故 宮崎県警察本部

また、宮崎県では高齢者のバイク利用者も非常に多く、若者と高齢者ともに被害件数が多くなっており、バイク事故がいかに日常と深く関わっているかが分かります。

年代別発生状況

区分 発生(件) 死者(人) 負傷者(人)
若者 中学生
高校生 20 17
一般少年 62 54
20〜24歳 76 66
高齢者 119 105
その他 320 1 294
合計 597 1 536
  • 引用元:平成30年宮崎の交通事故 宮崎県警察本部

3. バイク事故の特徴

バイク事故の特徴は以下の通りです。

  • 自動車の死角に入りやすい
  • バランスを取りにくく、転倒しやすい
  • 運転者が前屈みの姿勢になるため、視覚が狭くなりやすい
  • 運転者の身体を保護するものが少なく、重症になりやすい

バイクは、バランスをとって走行する乗り物であるため、一旦バランスを崩すと、ハンドルを取られてしまい、転倒することが多いです。また、ブレーキが前後輪を別々に操作する必要があり、ブレーキの操作も転倒の原因と言えるでしょう。

バイクの運転手からすると、相手の自動車から自分のバイクはしっかりと見えていると思っていることが非常に多く、さらに、バイクの運転手は路面の凸凹への注意等も必要となり、視界が路面中心となってしまうため、これもバイク事故の大きな原因の一つと言えます。

その反面、自動車の運転手からすると、バイクは自動車と比べて車体が小さく、バイクが遠くに見えてしまったり、速度もゆっくりであると捉えられ、夜間は特に見落としがちになってしまいます。この点もまた、バイク事故の大きな原因になっています。

このような特徴から、バイク事故では運転者が重症を負うケースが非常に多いといえます。

バイクを運転中に衝突されると、どんなに速度がゆっくりであったとしても、運転手は固いコンクリート上に投げ出されてしまいます。速度が速ければ速いほど、その衝撃は強くなり、怪我の重症度も高くなるといえるでしょう。

バイク事故では、打ちつけた部位により、様々な重症な被害が予想されます。中でも、走行中に腰部をコンクリートやガードレールにぶつけてしまうことにより、脊椎神経を損傷し、四肢不随になるケースは非常に多い被害と言えます。

4. バイク事故の後遺症

4-1. バイク事故の後遺症

バイク事故による後遺症では、以下のような症状が多く見られます。

① 下半身不随

バイク事故で多い後遺症の1つに、下半身不随があります。下半身不随とは、下半身が麻痺して動かなくなることであり、片足が動かなくなることもあれば、両足が動かなくなることもあります。

バイク事故で下半身不随になる原因として考えられるものは、以下の傷害です。

  • 脊髄損傷
    胸髄以下、特に腰髄を損傷した場合に、下半身不随になりやすい。

  • 外傷性くも膜下出血
    バイク事故で頭に強い衝撃を受けたことで、脳を包むくも膜の内側で出血が起こる。

バイク事故では下半身不随の他にも、胸から下が動かなくなる、手足が動かなくなるといった症状が残ることもあります。

失明

バイク事故では失明が後遺症として残る可能性もあります。バイク事故での失明の原因として考えられるものは、以下の通りです。

  • 網膜剥離・網膜穿孔
    網膜剥離とは、バイク事故によって、眼球の内側にある網膜という膜が剥がれて、視力が低下すること。網膜穿孔とは、バイク事故によって、網膜に穴が開いてしまうこと。

  • 眼窩底骨折
    バイク事故の衝撃で、眼球が位置する「眼窩」と呼ばれる空間の床に当たる「眼窩底」が骨折すること。物が二重に見えたり、血混じりの鼻水がでることがある。

  • 眼球破裂
    バイク事故によって、大きな衝撃が目に加わったり、鋭いものが眼球に刺さることで、眼球を覆う膜(角膜や強膜)の一部が破れた状態になってしまうこと。眩しさを感じやすくなったり、眼球に違和感を感じるといった症状が現れることがある。

  • 頭蓋底骨折
    眼球が位置する「眼窩」と呼ばれる空間の床に当たる「眼窩底」が骨折した状態。頭蓋底の周辺の視神経が損傷し、失明の他、調節機能障害、視野障害、眼球やまぶたの運動障害などの可能性がある。

③ 骨折による後遺症

バイク事故が発生すると、腰や首、手足など様々な部位を骨折する可能性があります。一口に骨折といっても、その種類には様々なものがあります。

バイク事故で発生する可能性のある骨折の種類と、それにより残る後遺症について確認していきましょう。

  • 圧迫骨折
    骨に圧力がかかり、つぶれるようにして骨が折れること。
    【後遺症】椎体の変形、麻痺、痛み、可動域制限

  • 開放骨折
    折れた骨が皮膚を突き破り、傷口が開くこと。
    【後遺症】痺れ、痛み、関節可動域制限、偽関節、変形障害、醜状障害

  • 破裂骨折
    骨折した骨が脊柱管の方向に飛び出し、脊柱管の中を通る脊髄などを圧迫すること。
    【後遺症】椎体の変形、麻痺、痛み、可動域制限

  • 粉砕骨折
    骨だけではなく脂肪や膠原繊維なども損傷し、粉砕したような状態になること。
    【後遺症】運動障害、醜状障害

④ 体の切断

バイク事故によって、足や腕、指の切断を余儀なくされるケースも非常に多いです。切断の原因としては、以下のものがあります。

  • 開放骨折や粉砕骨折等の骨折
    事故以前のように骨を接着することができなかったり、傷口が炎症を起こすことで、切断に至ってしまう。

  • 外傷
    バイク事故の衝撃による外傷により、切断に至ってしまう。

4-2. バイク事故による後遺障害等級

バイク事故で後遺症が残り、後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料を加害者側に請求できます。バイク事故での主な後遺症が該当する可能性のある等級、慰謝料について説明いたします。

以下に記載している慰謝料は、弁護士に依頼した際に提示できる金額である、弁護士基準の慰謝料になります。

弁護士に依頼しなかった場合に、保険会社が提示してくる金額は、弁護士基準よりも明らかに低い金額である事が多いため、慰謝料の交渉は弁護士に依頼することをおすすめいたします。

下半身不随

単麻痺の場合

5 級 2 号 1400万円

  • 高度

7 級 4 号 1000万円

  • 中度

9 級 10 号 690万円

  • 軽度

12 級 13 号 290万円

  • 軽微

対麻痺の場合

1 級 1 号 4000万円

  • 高度(要介護)

2 級 1 号 3000万円

  • 中度(要介護)

3 級 3 号 1990万円

  • 中度

5 級 2 号 1400万円

  • 軽度

12 級 13 号 290万円

  • 軽微

失明

1 級 1 号 2800万円

  • 両目を失明

2 級 1 号 2370万円

  • 1眼を失明し、1眼の視力が0.02以下になった

3 級 1 号 1990万円

  • 1眼を失明し、1眼の視力が0.06以下になった

7 級 1 号 1000万円

  • 1眼を失明し、1眼の視力が0.6以下になった

8 級 1 号 830万円

  • 1眼を失明または視力が0.02以下になった

上肢の可動域制限

肩関節、肘関節、手関節のすべてが強直してしまい、手指の全部の用を廃した

1 級 4 号 2800万円

  • 両上肢の場合

5 級 6 号 1400万円

  • 片側の上肢の場合

人工関節の挿入置換により、関節に1/2以下の可動域制限が生じた

6 級 6 号 1180万円

  • 1上肢の2関節の場合

8 級 6 号 830万円

  • 1上肢の1関節の場合

1上肢の肩・肘・手首のうち、1つに可動域制限が生じた

10 級 10 号 550万円

  • 1/2以下の可動域制限

12 級 6 号 290万円

  • 3/4以下の可動域制限

下肢の可動域制限

人工関節の挿入置換により、関節に1/2以下の可動域制限が生じた

6 級 7 号 1180万円

  • 1下肢の2関節の場合

8 級 7 号 830万円

  • 1下肢の1関節の場合

1下肢の股・膝・足首のうち、1つに可動域制限が生じた

10 級 11 号 550万円

  • 1/2以下の可動域制限

12 級 7 号 290万円

  • 3/4以下の可動域制限

しびれ、痛みの後遺障害

12 級 13 号 290万円

  • しびれや痛みの存在の医学的な証明が可能である

14 級 9 号 110万円

  • しびれや痛みの存在の説明、推定が可能である

変形障害の後遺障害

6 級 5 号 1180万円

  • 脊柱に著しい変形がある

11 級 7 号 420万円

  • 脊柱に変形がある

12 級 5 号 290万円

  • 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨、骨盤骨に著しい変形がある

醜状障害の後遺障害

14 級 4 号 110万円

  • 上肢の露出面に、手のひらの大きさの醜い痕が残った

14 級 5 号 110万円

  • 下肢の露出面に、手のひらの大きさの醜い痕が残った

身体の切断をともなう後遺障害

1級 2800万円

  • 両上肢の肘関節以上を切断
  • 両下肢の膝関節以上を切断

2級 2370万円

  • 両上肢の手関節以上を切断
  • 両下肢の足関節以上を切断

3級 1990万円

  • 両手の手指全てを切断

4級 1670万円

  • 1上肢の肘関節以上を切断
  • 1下肢の膝関節以上を切断
  • 両足のリスフラン関節以上を切断

5級 1400万円

  • 1上肢の手関節以上を切断
  • 1下肢の足関節以上を切断
  • 両足の足指全てを切断

6級 1180万円

  • 1手の手指全て又は親指を含む4手指を切断

7級 1000万円

  • 1手の親指含む3手指又は親指以外の4手指を切断
  • 1足のリスフラン関節以上を切断

8級 830万円

  • 1手の親指含む2手指又は親指以外の3手指を切断
  • 1下肢の5㎝以上を切断
  • 1足の足指全てを切断

9級 690万円

  • 1手の親指又は親指以外の2手指を切断
  • 1足の親指を含む2以上の足指を切断

10級 550万円

  • 下肢の3㎝以上を切断
  • 1足の親指又はそれ以外の4足指を切断

11級 420万円

  • 1手の人差し指、中指又は薬指を切断

12級 290万円

  • 1手の小指を切断
  • 1足の第2の足指、それを含む2の足指、第3の足指以下の3足指を切断

13級 180万円

  • 1手の親指の指骨の一部を切断
  • 1下肢の1㎝以上を切断
  • 1足の第3の足指以下の1または2足指を切断

14級 110万円

  • 1手の親指以外の手指の指骨の一部を切断

バイク事故で負う可能性のある後遺症には、様々な種類があります。今回説明した後遺症は、主な症状であるため、他の後遺症が残る可能性ももちろんあります。それぞれの後遺症に対して、詳細に説明を行いますので、後遺症について分からないことがある際は、いつでもご相談ください。

4-3. 後遺障害等級認定と弁護士

バイク事故に遭って後遺症が残った場合、以下の点を覚えておきましょう。

  • 後遺障害等級の認定が妥当かどうか確認をする
  • 保険会社から提示された慰謝料金額が妥当かどうか確認をする
  • 示談交渉、後遺障害等級認定の申請は弁護士に任せる方が良い

バイク事故では重症な後遺症が残りやすい事故の1つになります。よって、保険会社からも高額な慰謝料を提示される場合があり、そのまま鵜呑みにしてしまう方も多いでしょう。しかし、実は、残った後遺症に対する慰謝料としては、適正額よりも低い可能性もあります。

そもそも保険会社は、相場よりも低めの金額を提示してくる傾向にあるため、示談金の提示を受けてもすぐに受け入れず、必ず適正な金額かどうかを弁護士に確認してもらうようにしましょう。

被害者自身が増額を要求しても受け入れてもらえない可能性が高いですが、弁護士が増額を要求することで、主張が受け入れられる可能性は非常に高くなります。よって、バイク事故の後遺症についてお悩みの方は、ぜひ一度、当弁護士法人きさらぎまでご相談ください。初回相談は無料ですので、お気軽にお越しください。

5. バイク事故の過失割合

過失割合とは、交通事故が発生した原因が、加害者と被害者それぞれにどの程度ずつあるかを割合で示したものになります。たとえ被害者であっても、自転車事故をはじめとした交通事故は、一方だけに過失があるケースは少ないです。よって、過失割合がつくことがほとんどであり、受け取れる賠償金はその割合分引かれることになります。

交通事故は、それぞれ複雑であり、状況や原因も様々ですが、ある程度事故を類型ごとに分類して考えることができます。その事故類型に対して、一定の過失割合の「基準」が定められています。

この基準は、これまでにおこなわれた民事裁判例がもととなっています。

5-1. バイク事故の過失割合を決める際のポイント

バイク事故が起こったとき、過失割合を決定するための重要な3つのポイントがあります。

① 事故現場が交差点か否か

まず、事故現場が交差点かそうでないかが、非常に重要なポイントとなります。交差点の場合には、交差点独自の様々な交通ルールが適用になるからです。

この交通ルールとは、例えば、広い方の道路が優先される、左側の車両が優先される、徐行や一旦停止が必要な場合がある、等です。交差点においては、前方だけでなく、左右への高い注意力も要求されることになります。

② 信号機の有無

次に重要なポイントが、信号機の有無です。信号機がなかったら、広い方の道路が優先されたり、左側の車両が優先されたりしますが、信号機があれば、基本的に信号機による指示が第一になります。

信号無視をした場合、非常に高い過失割合が割り当てられることになります。

③ 信号機の色

信号機の色も、非常に重要なポイントになります。例えば、赤信号で進行してしまった場合、過失割合は非常に高くなり、100%に近い過失割合が割り当てられます。

また、黄色信号であっても、原則的には停止をしなければなりません。よって、黄色信号で進行した場合にも、過失割合は高くなることを覚えておきましょう。

万が一バイク事故等交通事故に遭ってしまった際、自身の過失割合をなるべく低くするために、普段から信号機の指示は必ず守るようにしましょう。

④ 単車修正

バイク事故の過失割合について、もう1点知っておく必要があります。バイクと自動車の交通事故の場合、基本的にはバイクの方が自動車よりも、過失割合は小さくなります。

バイクは、自動車よりも車体が小さく事故回避能力が低いと考えられていること、バイクの方が交通事故によって受けるダメージが大きいこと等が考慮されています。このことを、「単車修正」といいます。

5-2. 過失割合の具体例

次に、バイク事故のこれまでの判例をもとに「バイク対自動車」「バイク対歩行者」のパターンに分けて、具体例を用いて説明していきます。

① バイク 対 自動車

この場合、前述しているように、バイクの方が有利に扱われるケースの方が多いです。自動車もバイクも、道路交通法上はどちらも同じ「車両」として扱われますが、バイクのほうが事故の衝撃が運転者にダイレクトに加わる危険性が高いため、バイクの過失割合が有利に扱われるのです。

バイクが青信号で交差点を走行中に、自動車が赤信号で交差点に進入し衝突
→自動車:バイク=100:0

バイクが黄信号で交差点を走行中に、自動車が赤信号で交差点に進入し衝突
→自動車:バイク=100:0

一方の車両が一方通行規制に違反して交差点にさしかかった時に衝突
→自動車(違反あり):バイク(違反なし)=90:10
→自動車(違反なし):バイク(違反あり)=30:70

② バイク 対 歩行者

この場合、歩行者の方が有利に扱われるケースの方が多くなっています。道路交通法上、バイクは「車両」として扱われます。歩行者の方が大きなダメージを受ける危険性が高いため、歩行者の過失割合が有利に扱われるのです。

歩行者が青信号で横断を開始し、バイクが赤信号で進入して衝突
→バイク:歩行者=100:0

歩行者が青信号で横断を開始し、右左折のために青信号で交差点を進入してきたバイクと衝突
→バイク:歩行者=90:10

横断歩道から少し離れた場所で歩行者が道路を横断し、バイクと衝突
→バイク:歩行者=70:30

ここで紹介した過失割合は、様々な基準の中でのほんの一部となります。ご自身の事故にあった適正な過失割合が知りたいという方は、ぜひ一度私ども弁護士にご相談ください。

また、提示された過失割合に納得がいかなくて悩んでいる、といった方も、一度ご相談ください。詳細に話を聞いた上で、必ずご納得いただける提案をさせていただきます。

離婚協議書について ー 作成する意味や、記載すべき内容、公正証書の離婚協議書の作成方法まで解説

離婚する夫婦の多くは、話し合いによって離婚をする協議離婚という方法で離婚します。夫婦が離婚をする場合、必要事項を記入した離婚届を役所に提出すれば、協議離婚は成立します。

しかし、協議離婚においては、早く離婚をしたいために、離婚届のみを作成して提出し、その他の財産分与や養育費などの離婚条件について合意しないまま離婚してしまうことが多くあります。この場合、後から離婚条件について双方が合意する事は難しくなるため、離婚届を提出するまでに離婚協議書を作成しておく事が大切です。

このページでは、離婚の際の諸条件を定める離婚協議書について詳しくご説明いたします。なお、当事務所では、離婚協議書の作成や公正証書の作成に関してご依頼いただく事が可能です。離婚協議書に関する問題にお悩みの方は、遠慮なく当事務所にまでご相談ください。

1. 離婚協議書とは?

離婚協議書とは、離婚の際に、財産分与、慰謝料、離婚後の子どもの親権、養育費などについて取り交わした約束を書面化した合意書のことをいいます。離婚の際に、話し合うべき財産分与や養育費などについて話し合わずに離婚協議書を作成しないでいると、後々、財産分与や養育費の金額や支払い方法などを巡ってトラブルが生じる可能性があります。

特に、養育費は原則として未成年の子供が成人するまで発生するものですが、約60%の家庭が養育費の支払を十分に受けていません。このような養育費の未払いは大きな社会問題となっています。

また、離婚後に話し合いをしようとしても、金銭を支払う約束をする側(財産分与をする側、養育費を支払う側)は、話し合って合意すると金銭を支払う義務を負うことになるため、話し合い自体が困難になるケースもあります。

そのため協議離婚の際には、離婚届を提出する前に財産分与や養育費などの離婚条件を話し合い、離婚協議書を作成しておく事が大切です。

2. 離婚協議書を作成する意味

離婚協議書は、離婚の際に双方が合意した内容を書面にしたものです。

後に約束した慰謝料や養育費の支払いが滞った場合には、離婚協議書を根拠にして、「約束した通り支払うように」と主張し、それでも支払われない場合には、訴訟を提起して支払いを求めることができます。そのため、離婚協議書があれば、合意した内容を前提に相手に対して請求を行う事ができるため、離婚協議書は大きな効力を有します。

その一方で、離婚協議書はあくまで当事者間で作成されたものに過ぎないため、相手の財産に強制執行(差押えなど)を行うためには訴訟を提起して、判決を得る必要があります。

例えば、養育費や慰謝料などの支払いが滞っても、離婚協議書の存在だけでは、相手方の財産に強制執行(差押え等)をして、財産を強制的に回収することはできません。特に、養育費は、子どもが生活するために日々必要なものですから、月々の支払いで合意することが多く、未払いとなると、生活自体が困難になるケースがあります。

このような場合に速やかに強制執行するためにも、養育費など金銭的な支払いを約束するときには、強制執行認諾文言のある公正証書を作成しておくとよいでしょう。

3. 離婚協議書の中身について

3-1. 離婚協議書の形式

離婚協議書は、離婚届のような決まった様式の書面があるわけではありません。

そのため、適切と思う離婚協議書を作成する事によって、離婚協議書は法律上成立します。しかし、自分のケースで具体的にどのような内容で作成したらよいのか、また十分な内容となっているかについては、一度弁護士に相談することをお勧めします。

3-2. 離婚協議書に記載するべき内容

一般的に、離婚の際に夫婦で話し合って離婚協議書に記載する項目は次の通りです。

  1. 離婚に合意し、協議離婚すること
  2. 離婚届提出日(いつまでに)、提出者
  3. 財産分与(分与する財産の特定、支払う側・受け取る側の特定、支払う額、支払い方法、支払日など)
  4. 年金分割
  5. 慰謝料(支払う側・受け取る側の特定、金額、支払い方法、支払日など)
  6. 養育費(支払う側・受け取る側の特定、金額、支払い方法、支払日、支払いの終期、事故や病気で特別な出費が必要になった場合の双方の負担をどうするかなど)
  7. 未成年の子どもの親権者・監護者の決定
  8. 面会交流(面会の頻度、面会の時間、子どもの受け渡し方法など)
  9. 強制執行認諾文言付き公正証書を作成することの同意

3-3. 離婚協議書は夫婦で1通ずつ手元に保管

離婚協議書は、夫婦の離婚の際の約束事を書面にしたものです。

後でトラブルが生じたときには、合意の存在及び内容についての証拠になりますので、同じ内容のものを2通作成して、1通ずつ手元に保管しておくようにしましょう。

4. 離婚協議書の公正証書とは?

協議離婚する場合、離婚する条件については夫婦で協議して決めることになります。そうして決める条件の中には、離婚した後に一方から他方へお金(養育費、財産分与、慰謝料など)を支払う約束が含まれることもあります。

もし、その約束が守られないときは、受け取る側は、相手から強制的にお金の支払いを受ける手段として普通は裁判を起こす必要があります。この場合、訴訟を提起する事は精神的負担が重いことや時間を要する事から、相手に支払いを求めていく事が事実上困難な状況になります。

このようなトラブルを防ぎ、またトラブルが発生してしまった場合に速やかに対処するために、金銭を支払う約束がある場合には、公証役場で強制執行認諾文言のある公正証書を作成しておく方がよいでしょう。

5. 公正証書の離婚協議書の作成方法

公正証書は、全国にある公証役場で公証人が作成します。そのため、協議離婚の届出を行なう前後の時期に公正証書を作成するには、公証役場へ出向いて手続きします。

もっとも、公証役場へ離婚公正証書を作成する申し込みを行うまでに、公正証書に定める離婚契約の内容(養育費などの条件)を夫婦で固めておかなければなりません。公証役場はあくまで夫婦で合意した内容に基づいて離婚協議書を作成するところであり、その内容に関して相手と交渉したり仲介をするわけではありません。

以下は、離婚の公正証書を作成する準備から完成までの大まかな流れになります。

  1. 協議離婚する際に定める条件の項目(養育費、財産分与など)の確認
  2. (元)夫婦で話し合い、離婚に関する条件を、具体的に取り決める。
  3. 合意する内容を整理し、公証役場へ申込む時の必要資料の準備。
  4. 公証役場へ、合意内容を説明し、必要書類を添えた申し込み。
  5. 予約日時に(元)夫婦二人で公証役場へ行って契約の手続きをして公正証書の作成。
  6. 公証人手数料の支払いと引き換えに、完成した離婚公正証書の受け取り。

なお、当事務所では、公正証書による離婚協議書の作成のご依頼を頂いた場合には、公証役場への連絡から当日の立ち会いまで一貫したサポートをしております。公正証書による離婚協議書の作成でお悩みの方は、当事務所にまでご連絡ください。

弁護士に相談した方がよい、離婚問題のケースとは

離婚問題は日常的に生じうるものである一方、複雑かつ様々な問題を抱える法律問題です。そして、離婚に至る理由は、各家庭によって異なる事から、弁護士への相談が不要な場合もあります。

そのため、以下では弁護士への相談・依頼が必要となる可能性の高いケースをご紹介します。

1. 相手が離婚に反対している場合

相手が離婚自体に応じていない場合、離婚に関する交渉を行うことはできません。相手が離婚に反対する場合、離婚届を作成する事はできず、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てる必要があります。

また、相手が離婚に応じない場合、その話し合いも難航する事が予想される事から、弁護士が介入して話を進める事をお勧めします。

2. 相手が弁護士へ依頼した場合

相手が弁護士へ依頼をした場合、今後離婚に関する交渉はその弁護士と行う事となります。この場合、離婚に関して専門的知識を有する弁護士と一般の方々が対等に交渉を行うことは難しいでしょう。また、離婚に関連した諸問題(養育費・親権など)も含めて交渉を行う必要があります。

そのため、相手が弁護士へ依頼している場合、こちらも弁護士への相談をお勧めします。

3. 相手が子どもを連れて別居した場合

承諾なく無断で子どもを連れて相手が別居したというケースの場合、緊急の対応を要します。この場合、一刻も早く子どもを取り戻すために裁判所への調停・審判、又は保全処分を行わなければならず、至急対応する必要があります。

このような連れ去りに関しては、迅速かつ適切な対応を必要としますので、弁護士への相談をお勧めします。

4. 親権に争いがある場合

未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、子どもの親権者を定めなければなりません。この場合、夫婦のどちらが親権者となるかにつき争いがある場合、弁護士への相談・依頼が必要となります。なぜなら、親権者について合意が成立できない場合、家庭裁判所が判断する事になりますが、その場合家庭裁判所に対して自らが親権者として適切である事を、専門的かつ具体的に訴えかける事を要するからです。

5. 財産関係が複雑である場合

離婚による財産分与においては、夫婦共有財産を2分の1に分ける事が一般的です。しかし、不動産や保険などが関わるなど、夫婦の財産関係が複雑である場合、財産分与を行う事は簡単ではありません。この場合、様々な財産を整理して、どの財産を分配するのかを判断しなければなりません。

そのため、弁護士への相談が必要となります。

6. 相手と交渉する事が不安な場合

相手がモラハラな場合や攻撃的な性格の場合、離婚に向けた話し合いが難しくなります。特に、相手と交渉する場合に恐怖心や不安を感じる場合、十分な話し合いを行う事なく離婚を成立させてしまう危険があります。しかし、一度離婚条件に同意してしまった場合、これを後から撤回する事は困難です。

そのため、相手との交渉に不安を感じる方は、弁護士への相談をお勧めします。

離婚の手続きについて ー どんな場合に離婚は認められるのか、離婚に必要な5つの理由、不貞した本人が離婚を請求する場合について徹底解説

日本では、離婚する際、必ず裁判所を通す必要はなく、協議によって離婚することが可能です。また、離婚する夫婦の多くは裁判所を通さずに協議で離婚しています。

しかし、相手方に離婚を求める場合、もしくは、相手方が自分に離婚を求めている場合で、仮に、裁判となった場合、裁判所が離婚判決を出すかどうかの見通しを持つことはとても重要です。

本ページでは、離婚手続きについて深く説明させて頂きます。

1. どんな場合に離婚は認められるのか

日本では、離婚する際、必ず裁判所を通す必要はなく、協議によって離婚することが可能です。また、離婚する夫婦の多くは裁判所を通さずに協議で離婚しています。

しかし、相手方に離婚を求める場合、もしくは、相手方が自分に離婚を求めている場合で、仮に、裁判となった場合、裁判所が離婚判決を出すかどうかの見通しを持つことはとても重要です。

このように、裁判になった際のことを意識する理由は、交渉において強気に出ることができるかどうかということに直接影響するからです。

例えば、自分が相手方に積極的に離婚を求める場合、裁判所が離婚判決を出さないような事案では、強気の交渉はできません。この場合、いかに相手方に離婚に応じてもらうかがポイントとなります。

逆に、裁判所が離婚判決を出すことが確実なような事案では、強気に出ることができるので、相手方の意向(例えば離婚条件)をそれほど聞く必要がないのです。

したがって、「裁判所が離婚判決を出してくれるかどうか」という視点は大事です。

裁判所は、法律を解釈し、適用するのが仕事です。したがって、離婚判決を出すかどうかも、法律の規定によって決まります。離婚について、民法は、次の5つの場合に限り、離婚を認めると規定しています。この5つは「離婚原因」と呼ばれています。

2. 離婚に必要な5つの理由

相手が話し合いで離婚に合意してくれない場合、裁判手続で離婚することになります。この場合、次の理由に限り、離婚できます。

離婚に必要な5つの理由

  1. 浮気・不倫(不貞行為)
  2. 悪意の遺棄
  3. 3年以上の生死不明
  4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由

2-1. 浮気・不倫(不貞行為)

① 不貞を原因とした離婚

配偶者ある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結んだ場合、離婚できる可能性があります。また、不貞行為は相手の意思の有無、つまり不貞行為の相手と合意の上であったか否かということは関係ありません。相手方と合意があった場合 (いわゆる不倫行為や売春行為)も合意がない場合であっても、不貞行為をしたことになります。 また一時的なものか継続的なものかも問いません。

また、配偶者の浮気が発覚した場合、浮気相手に慰謝料を請求することができます。

② 不貞行為となる場合、ならない場合

では、パートナーの浮気はどこからが慰謝料の対象となる“不貞行為”となるのでしょうか。

電話やメール・LINEで連絡を取る、二人きりで食事に行く、手をつなぐ、キスをする、肉体関係を持つなど、男女の関係には様々な段階がありますが、法律的に”不貞行為”とは、「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいいます。

すなわち、夫や妻が他の異性と性的関係(肉体関係)にあったかどうかが不貞行為と認定されるポイントとなります。

具体的には、ラブホテルに出入りする写真や動画、どちらかの家に長時間滞在していたことを示す証拠、泊りがけの旅行に行った証拠、肉体関係があったことが分かるメール・LINE、肉体関係があったことを証明できる録音テープなどが必要です。

不倫(不貞)を原因として離婚請求する場合には、早めの段階から証拠を準備することが重要です。

2-2. 悪意の遺棄

悪意の遺棄とは、婚姻倫理からみて非難される態様で夫婦の義務である同居・協力・扶助義務に違反する行為をすることです。配偶者の一方が理由もなく、他方配偶者や子どもを放置して、自宅を出て別居を続けたり、収入がありながら婚姻費用の分担をしないような場合です。

なお、配偶者が仕事等の都合で同居することなく別居を続けているような場合には、それだけでは悪意の遺棄とはいえません。配偶者が正当な理由なく、他方の配偶者との同居を拒む・協力しない・他方配偶者と同一程度の生活を保障してくれない、といった場合には悪意の遺棄として離婚できる可能性があります。

具体的には、このような場合です。

  • 妻が半身不随となったにもかかわらず、夫が妻を置き去りにして長期間生活費を送金しなかった。
  • 妻が幼子を3人抱えているにもかかわらず、夫が妻に出発予定も行き先も告げず、その後の生活について何も相談することなく、あえて家族との共同生活を放棄し、自宅を出て行った

2-3. 3年以上の生死不明

3年以上、配偶者が生きているのか死んでいるのか確認できない状態が現在まで続いていると、離婚できる可能性があります。

2-4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと

配偶者の精神障害の程度が、夫婦互いの協力義務を十分に果たし得ない場合、離婚できる可能性があります。ただし、離婚を求める配偶者が誠意ある介護・看護をしてきた、障害のある配偶者に対する離婚後の療養生活の保証があるといった事情がないと離婚が難しい傾向にあります。

2-5. その他婚姻を継続し難い重大な事由

その他婚姻を継続し難い重大な事由とは、夫婦仲が破綻していて、回復の見込みがない場合、具体的には「すべての事情を総合してみても到底円満な夫婦生活の継続又は回復を期待することができず、婚姻関係が破たん状態になっている場合」をいいます。実際に婚姻関係の破綻と言えるかどうかは、婚姻共同生活が客観的に見て修復することが著しく困難な状況になっているといえるかどうかで判断されます。 具体的に問題となるのは、次のとおりです。

① 長期間の別居

夫婦が長期間別居していれば、婚姻関係が破たん状態にあると考えら れます。した って、別居期間は重要な要素です。 実際に、夫婦が別居期間が5年以上となる場合、または婚姻の本旨に反する別居をしている場合を離婚事由とするということが検討されたことがあります (平成8年2月26日 法制審議会「民法の一部を改正する法律案要綱」)。

現在、婚姻関係が破綻していると言えるために必要な別居期間は明確に定まっているわけではありません。しかし、一般的には3年から5年程度の別居で婚姻関係が破綻していると評価されるケースが多いと言えるでしょう。

② その他の理由

別居期間のほかに、「婚姻を継続し難い重大な事由」として挙げられるのは、虐待・暴行・重大な侮辱・不就労・浪費・借財等・犯罪行為、性的不能を含む障害、親族との不和、性格の不一致などです。具体的には、以下のような事例の場合、婚姻関係が破綻していると評価される可能性があります。

  • 夫婦間の性格が合わない・モラハラで困っている
  • 相手が働かずに無職が続いている
  • 夫が妻と夫の親族との不和に無関心な上、親族に同調し、円満な夫婦関係の実現に努力する態度が見られない
  • 相手から我慢できないほどの暴行を受けている、虐待されている

そのため、離婚が認められるか否かは、各夫婦間の個別事情によって大きく判断が変わる事があります。
したがって、離婚事由が存在するかどうか悩む場合には、まず当事務所にまでご相談下さい。

2-6. 離婚事由がないと離婚を請求できないの?

離婚事由が存在しなくとも、お互いが離婚に同意すれば離婚は問題なく成立します。そのため、仮に離婚事由がなくとも、相手に対して明確に離婚を要求すれば、応じてくれる可能性も十分存在します。

最初は離婚に反対していたとしても、離婚協議・離婚調停と話し合いを進めていく事で、離婚に応じてくれるケースも多数存在します。

そのため、もし離婚事由が存在しないとしても、離婚について同意を得られるよう相手と交渉をしていく事はとても重要です。

3. 不貞した本人が離婚を請求する場合

浮気をした妻が夫に離婚の請求をする場合等、夫婦仲の破綻の原因が離婚を請求する側にある場合、原則として離婚は認められません

しかし、次の事情を総合考慮して、夫婦仲の破綻に原因のある配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。

  1. 別居期間が長い
  2. 子供達が全員自立している
  3. 離婚しても他方の配偶者が精神的、社会的、経済的に苛酷な状態にならない
  4. 離婚を認めても著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がない

また、夫と妻の双方に夫婦仲の破綻の原因があり、夫婦仲が破綻している場合には、離婚請求は認められます。

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